第43話 | |
女銃鹿「犯人が死ぬことで被害者遺族が前に進めるのなら!」 殺すべきだ! 処刑するべきだ! |
島乃守! 島民殺しの罪であなたを処刑します! |
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!? |
【愛知県のとある森】 女銃鹿が島乃守に銃をつきつけた。 「女銃鹿(めじゅうか)」 「島乃守(しまのまもり)」 |
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犯罪者を処刑しているのか? | |
どうしてそんなことを? |
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被害者遺族のためです。 | |
被害者遺族のため? あんたは何者なんだ? |
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死刑廃止法案が可決してから、国による死刑は消滅しました。 | |
私は死刑をやらなくなった国のかわりに死刑を執行する者です。 被害者遺族のために犯罪者を処刑します。 |
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なぜ被害者遺族のために処刑しているんだ? |
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処刑が廃止されて一番イヤな思いをするのは、被害者遺族です。 | |
犯罪で身内を殺された被害者遺族の心を救うには、何が必要だと思いますか? |
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カ……カウンセリングか? | |
傷ついた被害者遺族の心をカウンセリングで癒すのも重要です。 | |
しかしカウンセリングだけでは足りません。 |
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どういうことかな? | |
被害者遺族は可愛そうなだけの存在ではありません! | |
被害者遺族は、犯罪者と勇ましく戦います! 裁判で戦います! 他の被害者遺族と手を取り合って戦います! |
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・・・・・・。 | |
被害者遺族は望みます。 犯罪者に勝つことを! |
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戦いに勝って、犯罪者に罰がくだされることを! |
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たしかにカウンセリングではできない事だ。 | |
犯罪者の罪が重ければ…… | |
多くの被害者遺族は、犯罪者の死刑を目指して戦います。 |
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・・・・・。 | |
しかし死刑は廃止されました! | |
犯罪者の死刑を望む被害者遺族の感情は行き場を失います。 |
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なんとなくおまえさんの考えが分かってきたよ…… | |
今の死刑廃止論は、けっきょくのところ犯罪者と戦う被害者遺族の気持ちを踏みにじる事で成り立っています。 | |
それは…… 戦う被害者遺族に対して、あまりにも無慈悲すぎる。 |
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おまえさんは被害者遺族のために、死刑をしているんだな。 | |
そうです。 | |
わしに殺された島民の遺族も、わしの死刑を望んでいるのか? | |
「300人の島民が死んだ島」 |
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そう聞いています。 | |
そっか・・・ | |
悪魔に取り憑かれたわしは、人をいっぱい殺したもんな… 被害者遺族がわしの処刑を望むのは当たり前か… 「悪魔に取り憑かれたわしはいっぱい殺した」 |
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随分と聞きわけがいいですね? | |
わしさ… | |
・・・・ ・・ |
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家族を愛してたよ。 | |
娘と友達感覚で遊んで… 年に6回ぐらい家族旅行して… 2週間に1回ぐらい外食して… 家族と毎日テレビをみて… 家族と一緒に晩飯を食べる… そういう当たり前のことがワシの宝だった。 「ワシの家」 |
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・・・・・。 | |
でもある日… | |
悪魔に取り憑かれたわしは何もかも破壊した。 自分の家族も… 他人の家族も全て破壊した。 「何もかも破壊した」 |
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あの時の現実味にかける悪夢が全ての幸せを破壊した! |
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・・・・・。 | |
ワシはワシが許せない! | |
ワシは死刑になって当然の男だ! 島乃守は自分を責めた。 心の中で何度も何度も自分の顔面を殴り続けた。 |
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罪を認めて改心したのですね。 | |
女銃鹿さんだったかな? | |
はい。 | |
あんたはワシの娘にそっくりだ。 でもあんたの話を聞いて分かったよ。 |
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女銃鹿さんと娘は別人だ。 性格と外見はそっくりだが… 雰囲気が違う。 |
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・・・・・・。 | |
銃のような恐ろしさを女銃鹿さんから感じるよ。 | |
!? | |
女銃鹿さんは銃のように恐ろしい。 | |
恐ろしい人だが…… 恐ろしさの中に優しさを感じる。 娘とは違ったタイプの人間だ。 |
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・・・・・。 | |
静かで温かい沈黙が流れた。 ・・・・ ・・ |
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(私はこの人が嫌いでは……ない?) | |
女銃鹿は島乃守に親しみを感じていた。 |
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ん? どうしたのかな? |
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・・・・・・。 | |
私はこの人が嫌いではない。 私はこの人が嫌いではない。 私はこの人が嫌いではない。 むしろ私はこの人を愛している。 「私はこの人を愛している?」 |
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はっ? | |
女銃鹿は自分の心に突然発生した言葉に驚愕し…… 混乱した! |
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??? | |
? | |
(何を考えてるんだ私は!?) | |
冷静になれ! 冷静になれ! |
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女銃鹿さん顔色が悪いぞ。 | |
(この人は……) | |
沢山の人を殺した悪人だ! すぐに処刑すべき悪! |
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島乃守! | |
!? | |
これ以上の問答は無用です! | |
あなたを処刑します! ・・・・・ ・・ |
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分かった。 | |
ワシ… 死んで詫びる。 |
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最後に言い残すことはありませんか? | |
最後か…… | |
・・・・ ・・ |
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最後に言い残す言葉はないが、最後に聞きたい言葉がある。 |
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? | |
図々しいお願いだが、女銃鹿さんに言ってもらいたい言葉がある。 | |
な……なんですか? | |
お父さんありがとう。 | |
娘にそっくりな女銃鹿さんに…… お父さんありがとう ……と言ってもらいたい。 |
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・・・・・・。 | |
沢山の島民を殺したワシに、与えていい言葉じゃない | |
娘達を殺したワシに、与えていい言葉じゃない。 「娘の島乃勇気」 「娘の島乃桜」 |
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・・・・・・。 | |
図々しいのは100も承知だ。 | |
でもワシが本当に欲しいモノはその言葉だけなんだ。 ワシにとってその言葉が人生の全てだ。 |
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分かりました。 言葉だけならお安い御用です。 |
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おお! 引き受けてくれるかね? |
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いきますよ…… | |
・・・・ ・・ お父さんありがとう |
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ありがとう。 その言葉がわしの全てだ。 |
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これで思い残すことはない。 わしを殺してくれ。 |
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あっ…… | |
? | |
ああああ…… | |
「お父さんありがとう」と言った女銃鹿の目から大量の涙が流れ落ちた。 女銃鹿は自分がなぜ泣いているのか分からない。 |
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女銃鹿さん? 無理しているのか? |
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私は? 私は? |
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女銃鹿は混乱した。 女銃鹿は混乱した。 |
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大丈夫か? 女銃鹿さん。 |
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私は何を迷っている? 思いだすんだ。 |
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あの家族の言葉を! 私を決意させたあの言葉を! 女銃鹿はとある家族との会話を思い出した。 ・・・・・・ ・・・・ ・・ |
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裁判に勝ち…… 犯人に死刑が求刑された。 |
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しかし死刑は廃止になった。 死刑は無効になった。 |
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俺たち被害者遺族は何のために戦ったんだ? |
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俺たち被害者遺族はどうすればいいんだ? |
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被害者遺族は…… | |
どうすればいいのですか? |
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? | |
被害者遺族は… | |
被害者遺族は… |
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ど う す れ ば い い ん だ ! |
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女銃鹿が吠えた! 吠えて! 吠えて! 吠え続けた! |
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・・・・・・・。 | |
犯人が死ぬことで被害者遺族が前に進めるのなら! | |
殺すべきだ! 処刑するべきだ! 女銃鹿がニューナンブm60を構え直し島乃守に 銃口を向けた! |
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島乃守! | |
あなたを処刑しますっ! |
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・・・・・・。 | |
女銃鹿がニューナンブm60の引き金を引いた! 裁判官の木槌(ガベル)が台を叩くように、撃針が雷管を叩く! ニューナンブm60が激しく火を 噴いた! 弾丸は島乃守の額(ひたい)をつらぬく! |
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はあー。 はあー。 |
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島乃守の額(ひたい)に直径10cmのトンネルが開通した。 島乃守は背中からゆっくり倒れ… 動かなくなった。 |
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すぐに遺体の処分を…… 火葬場で処分を…… |
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女銃鹿は死体を処分する場所を∞視点で捜索した。 女銃鹿の視界が涙で歪んで見える。 心が重い。 心が重い。 心が痛い。 心が痛い。 心が壊れそうだ。 心が壊れそうだ。 |
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うっ…… | |
女銃鹿を急な吐き気に襲われ…… 地面におう吐する。 |
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私は正しいことをしたはずだ。 | |
女銃鹿を涙を流しながら自分に言い聞かせた。 日は落ち周りは暗くなる。 森は闇につつまれ… 女銃鹿は森の闇につつまれた。 |
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【新宿の高層ビル】 同時刻。 新宿の一等地にある高層ビル。 高層ビルの屋上で2人の人物が∞視点を使用して、女銃鹿の動向を見守っていた。 |
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うん殺した。 ナイス喪失体験。 |
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蜻蛉斬りがいちごポッキーの束を食べながら答えた。 「蜻蛉斬り(とんぼきり)」 |
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島乃守の資料を女銃鹿の家に届けたか? | |
なゐの神衣がいちごポッキーを上品に食べながら質問した。 「なゐの神衣(ないのかむい)」 |
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部下の三国黒(みくにぐろ)が女銃鹿の家に資料を届けた。 | |
ふむ。 しばらく女銃鹿を監視だな。 |
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島乃守を殺した自分を責め、自殺する可能性もある。 警察に自首するならば、その前に殺処分する必要がある。 願わくば… |
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このピンチを乗り越え新しい何かを私達に見せてほしい。 |
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そう願いたい。 | |
女銃鹿の妹は過去にこう言った。 |
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お姉ちゃんそんなに死刑がやりたいん だー? |
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だったら死刑囚も死刑執行人も楽しく死刑ができる、ワクワク死刑ランドをつくったらいいと思うの♪ 価値観の逆転ホームランなの♪ 「女銃鹿の妹いわく」 |
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妹のように人とは違う提案を即答できるグノーシャに育ってほしい。 | |
女銃鹿の今後に期待♪ | |
ビルの屋上は夜の闇につつまれている。 そんな中…… なゐの神衣と蜻蛉斬りの瞳は不気味に輝いていた。 |
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