第8話 | |
20××年 元死刑囚連続殺人事件が発生。 それにともない警視庁は特別捜査班を発足した。 |
元死刑囚連続殺人事件の概要を説明する。 | |
はい |
【警視庁本部庁舎】 |
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ここは警視庁の刑事課にあるオフィス。 二人の刑事がある容疑者について話をしていた。 |
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まず… このプリントを見てくれ。 |
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一人は警視庁刑事部捜査一課の鬼頭剛(きとうつよし)巡査部長。 身長180cmでがっしりとした体型… 強面(こわもて)という言葉がシックリくる刑事である。 同僚からは若(わか)ゴリラと呼ばれている。 |
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このプリントですね。 | |
もう一人は茂部敬二(もぶけいじ)巡査長。 鬼頭剛の後輩である。 |
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元死刑囚連続殺人事件の容疑者……通称「討手(うちて)」は、今年にはいって8人もの元死刑囚を射殺している。 |
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なぜ討手(うちて)と呼ばれたのですか? | |
最初の殺人が起きたときに犯行声明文が鑑識の「羽山アキラ」に送られてきた。 その時に犯人自ら「討手」と名乗ったんだ。 |
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本人が名乗ったんですね。 | |
犯行声明文の内容は…… 「死刑は私が継続します。討手より」という短い文章だった。 それから容疑者を討手と呼ぶようになったわけだ。 |
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討手(うちて)ですか? 銃を撃つ討手という意味ですかね? |
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敵や罪人を討伐しに向かうモノを、討手とも呼ぶな。 | |
茂部(もぶ)は苦笑いをしながら、若ゴリラから渡されたプリントに軽く目を通す。 |
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それで… 若ゴリラさん。 |
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…… | |
あ……いえ…… 後輩から若ゴリラと言われるのは不愉快ですよね。 |
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若ゴリラさんじゃなくて、若ゴリラと呼んでくれ。 | |
若ゴリラは強面(こわもて)の顔をゆるませて答えた。 |
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討手はなぜ元死刑囚ばかりを狙うのですか? | |
去年日本で死刑が廃止されたのが原因なんだろうな。 | |
熱狂的な死刑賛成論者だった討手は死刑が日本で廃止されたのが許せなかった。 だから自ら死刑執行人になって死刑を免れた元死刑囚を殺して回っていると…… |
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死刑がなくなると、仇討ちをする奴がでてくると昔の政治家は懸念したそうだが…… みごとに仇討ちをやらかす奴が出たわけだ。 |
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仇討ちと決め付けるのは早計では? | |
若ゴリラは眉間(みけん)にシワを寄せ、茂部(もぶ)の目をじっと見ながら何かを考えているようだ。 そして……苦々しい顔でこう答えた。 |
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これは俺の勘なんだが…… 討手は……はや…… |
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テレレェレ! テレレェレ! 突然、若ゴリラの携帯が鳴り響いた。 |
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おう……俺だ。 | |
若ゴリラお久しぶりです♪ 羽山アキラです。 ドイツのハイデルベルグで鈴木ハジメの鑑識をしてきました。 |
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羽山アキラと名乗る若い男から電話がかかってきた。 |
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おい茂部(もぶ)。 | |
はい。 | |
鑑識の羽山アキラと重要な話がある。 後で説明するから席をはずしてくれ。 |
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羽山アキラって、急きょドイツに向かった元機動鑑識班の羽山アキラですよね? |
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2日前・・・ 刑務所から脱獄した鈴木ハジメ元死刑囚が、ドイツで何者かに射殺 された事件が起きたよな。 それの確認をする為に羽山アキラを向かわせた。 |
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分かりました。 後で教えてくださいよ。 |
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茂部(もぶ)は何かを言いたそうな顔をしながら席をはずした。 若ゴリラは羽山アキラとの会話を再開することにした。 |
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おう……待たせたな。 今どこだ。 |
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ドイツ……ハイデルベルグ…… カール・テオドール橋の中央。 事件が起きた現場です。 |
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【カール・テオドール橋】 |
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ここはドイツ…… ハイデルベルグのカール・テオドール橋。 ネッカー川に1786~1788年にかけて造られた長さ220mの橋である。 古い橋ではあるが今も現役で使用されていて、車や人の往来も激しい。 そんな橋の中央で…… 一人の若者が橋の側面にもたれながら、携帯電話で話をしている。 身長170cmの中肉中背。 優男という言葉がピッタリ適合する青年である。 |
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それではドイツで鑑識した結果と…… ドイツの鑑識から入手した情報を報告します。 |
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この優男の名前は羽山アキラ。 警視庁刑事部捜査一課の鑑識課に所属しており…… その昔所轄の機動鑑識班で活躍していた。 |
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羽山アキラは若ゴリラに「鈴木はじめ」の鑑識結果を、いち早く教えて欲しいと頼まれていた。 |
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死亡推定時刻は2日前・・・ 日本時間で25:00です。 被害者の直接死因は出血性ショック。 銃弾を急所に3発被弾しています。 |
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現場で銃弾は見つかったか? | |
現場付近で38スペシャル弾が3発 発見されました。 | |
元死刑囚連続殺人事件に使われた銃弾と同じだな。 遠くから撃った犯行なのか? |
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射入口(弾丸が打ち込まれた部分)に火薬及び炭末がまったくついてませんし遠射でしょうね。 |
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どれぐらい遠くから撃ったんだ? | |
近距離から撃ったなら簡単にわかりますが…… 遠くからの狙撃だと特定が難しいですね。 |
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急に若ゴリラの表情が険しくなり…… 携帯を力強く握りしめた。 どうやら「遠くからの狙撃」というキーワードに何か思う所があるらしい。 |
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・・・・・・ | |
射入口の形状から弾丸の進入角度を割り出したのですが…… 斜め45度上空から銃弾が飛んできて、被害者を殺害したのは間違いないです。 |
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上空から撃てるポイントは? | |
弾丸の進入角度から計算したところ、なにもない上空から弾が飛んできた可能性が高いですね。 ヘリを使って上空から狙撃した可能性も考えられます。 |
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なにもない上空から弾が飛んできたのか…… 元死刑囚連続殺人事件の手口が同じだな。 |
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凶器も手口も同じですし、同一犯の可能性もあります。 |
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知りたい情報は全て聞けた。 犯人は間違いなく討手だ。 若ゴリラは天井を睨み付けて軽く微笑んだ。 |
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他に気づいた点は? | |
銃創(銃でできた傷)が凄く綺麗ですね。 |
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む・・・・・。 | |
まるで名刀で貫かれた傷のように見えました。 |
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羽山アキラは心の奥底から討手の御業(みわざ)を賞賛した。 刑事である羽山アキラが不謹慎ながらも賞賛してしまう…… それほど美しい銃創だった。 |
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殺人は殺人だ! 何を言ってるんだ? |
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……? 見たままの感想ですが? |
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もういい…… ご苦労だったな。 お前さんは優秀だよ。 |
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若ゴリラが急にへそを曲げたようだ。 携帯ごしでも若ゴリラが不愉快になっているのが伝わってくる。 |
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犯罪者のやらかした事を褒めるのは不愉快でしたか? | |
べつに怒ってねぇよ。 わざわざ教えてくれてありがとな。 |
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そういうと若ゴリラは携帯を一方的に切ってしまった。 羽山アキラは苦笑いをしながら携帯を胸元にしまう。 |
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さて……と 本命の調査報告をするかな。 |
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そういうと…… 羽山アキラは胸元からさっき使用した携帯とは違う別の携帯を取り出した。 そして本命の調査報告をするために携帯のスイッチを押す。 |
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・・・・・・ | |
・・・ ・・ ・ |
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はい女銃鹿です。 | |
本命の調査報告をする相手…… それは女銃鹿だった。 |
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羽山アキラです。 鈴木はじめの鑑識結果を報告します。 |
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鈴木はじめの死は確認できましたか? | |
それはもう見事な即死でしたよ。 | |
それで十分です。 鈴木はじめの鑑識結果報告書を被害者家族に見せませすので、後で提出してください。 |
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女銃鹿は即死したと最初から分かっていたのだろうか? とても落ち着いている。 |
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・・・・・。 いま女銃鹿は日本だよね? |
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はい? 日本ですよ。 |
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俺は今…… ドイツにいるよ。 |
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……? | |
日本からドイツの人間を狙撃するなんて、今でも信じられなくてね。 | |
何度も私が銃を撃っている姿を見たではないですか。 | |
羽山あきらは女銃鹿の銃を撃つ姿を何度も目撃している。 どんな遠くにいる相手でも銃殺できる不思議な力。 女銃鹿はそんな不思議な力を保持している。 鑑識という科学の世界を生きてきた羽山アキラには、女銃鹿の存在はとても不可思議だった。 |
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はは♪ そうだね♪ |
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私のほうからも質問していいですか? | |
ん? | |
刑事のあなたが「討手」である私に協力してくれるのはなぜですか? |
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んーそうだね。 | |
羽山アキラは空を見上げながら長考する。 羽山アキラは考えながら空を見上げると…… 雪がチラチラと降りだした。 |
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それは…… | |
はい。 |
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俺が生臭刑事(なまぐさけいじ)だからかな。 | |
羽山あきらがなぜ生臭刑事と名乗るのか? 女銃鹿には理解できなかった。 |
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