第55話 | |
女銃鹿「私はもっと人間を知ってから人間を裁くべきだった」 |
70の谷こかしとは、日本に住む70才以上の老人を全て処刑する計画だ。 |
2000万人の老人を処刑することになるだろう。 |
・・・・ ・・ サイショ園(えん)は畑の中に建てられた、鉄筋コンクリートの老人ホームである。 ・・・・ ・・ そして…… サイショ園は殺人事件の現場になっていた! |
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こ…これは… | |
事件現場にかけつけた刑事達が、現場を見て絶句した。 |
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酷いな。 頭が吹き飛んだ死体が20もある。 |
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警視庁刑事部捜査一課の鬼頭剛(きとうつよし)巡査部長も顔をゆがませる。 サイショ園の共同食堂で…… 頭部を失った20人の老人が、車イスに座った状態で発見された! |
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ヘッドショットで頭を失ったゾンビを見てる気分です。 | |
事件現場の食堂は壮絶(そうぜつ)な状態だった。 血の水たまりに… 死体にたかるハエ… 老人の頭部はバラバラになり、床に散乱していた。 |
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機動鑑識班からの報告です! 現場で20個の隕石(いんせき)が発見されました! |
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被害者の死因(しいん)は… 隕石の直撃で間違いないようです! 「死因は隕石の直撃」 |
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隕石(いんせき)が老人の頭に落ちて死ぬ事件だと? | |
なんなんだそれは? |
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偶然、隕石(いんせき)が老人の頭に落ちた? | |
20個の隕石が20人の老人に偶然あたり、20人の老人が偶然死んだと言うのか? | |
隕石(いんせき)が人に落ちる可能性は100億分の1しかねぇ… 偶然にしては出来過ぎてる。 |
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本件は殺人事件で間違いない! |
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もしこれが誰かの仕業(しわざ)だとしたら犯人は誰なんですか? | |
今は分からん。 | |
隕石(いんせき)をふらして人の頭に命中させる人間なんていませんよ。 |
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捜査をしてから答えをだせばいい。 | |
今回はケースが特殊すぎて、まともな初動捜査すらできませんよ。 | |
刑事の勘(かん)と経験が無理だと言っています。 この事件はたぶん…… 事故として処理されます。 |
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鬼頭さんだって無理だと分かっている筈(はず)です。 |
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そ……それは…… | |
くやしいですよ。 | |
最近は凶悪事件の検挙率が下がってます。 またマスコミやネットにフルボッコに叩かれるかもしれません。 |
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・・・・・・ | |
・・・・・・ | |
息苦しい沈黙が流れた。 刑事達は自分達の限界に打ちのめされていた。 ・・・・ ・・ |
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なぁ、少し変な話をしていいか? | |
? | |
なんの根拠もない俺の妄想(もうそう)だが…… | |
俺は犯人の気持ちが少し分かる気がするんだ。 だから犯人が許せない。 |
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本当に根拠のない妄想(もうそう)ですね。 | |
犯人の気持ちが分かるってどういう事ですか? | |
俺には認知症(にんちしょう)の母親がいてな。 | |
鬼頭剛(きとうつよし)は同僚(どうりょう)の刑事に身の上話をした。 ・・・・・・ ・・・・ ・・ 同時刻。 特別養護老人ホーム フタツメ園(えん) フタツメ園(えん)もまた畑の中に建てられた鉄筋コンクリートの老人ホームである。 「フタツメ園(えん)」 フタツメ園(えん)の入口で、メスと60Gが直立不動でつっ立っていた。 「メス」 「60G」 |
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なぜ老人ホーム! | |
なぜ俺は老人ホームの前にいる? |
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お姉ちゃんにお呼ばれされたの♪ | |
女銃鹿(めじゅうか)に呼ばれたのか? なんで老人ホームなんだ? |
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「お姉ちゃん = 女銃鹿(めじゅうか)」 |
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先月からお姉ちゃんは、ホームヘルパーの資格を取るために学校で勉強してるの。 | |
今は老人ホームで研修中だよ。 (ホームヘルパー2級なら1ヶ月ちょっとで取れるらしいよ。試験がないらしいし宇宙一簡単な資格かも~) |
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女銃鹿(めじゅうか)がホームヘルパーの資格!? | |
なんでホームヘルパー? 女銃鹿はどっちに向かって飛んでんだよ? |
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パパからアドバイスがあったの。 | |
女銃鹿、お前は人間のあり方をもっと学んだほうがいい。 様々な職業を経験して、人間がどんな生き物か把握しろ。 「パパ = なゐの神衣(ないのかむい)」 |
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事を起こすのはそれからにしろ。 | |
…ってパパに言われたの。 ようするにお姉ちゃんは人生経験を積むために、いろんな職業を体験するの。 |
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クソオヤジのアドバイスかよ! | |
俺達グノーシャはクソオヤジの手のひらでコロコロ転がされまくってんな。 ほんと気にくわねぇ! |
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60Gちゃんはパパが嫌いかもしれないけど、私は好きだよー。 |
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メスはクソオヤジ陣営のグノーシャか。 | |
蜻蛉斬り(とんぼきり)さんといいメスといい、あのクソ野郎のどこがいいんだか。 「蜻蛉斬り(とんぼきり)さん」 |
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パパを善悪で計(はか)るのは間違いだと思うの。 パパは今の価値観(かちかん)を破壊して、新しい世界をつくりたいだけだよ。 |
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パパは大地震の後から生まれる新しい世界みたいなもんだよ。 |
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なんだそれ? 意味が分からん。 |
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パパはファンキーで改革が大好きな面白オジちゃんだと思うの。 |
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ふん……もういいよ。 クソオヤジの評価は話したくない。 |
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それで、女銃鹿はなんで俺達を呼んだんだ? |
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老人ホームってお年寄り相手のレクレーションを毎日やってるそうなの。 | |
でね…… 老人ホームで研修をしてるお姉ちゃんに、レクレーションの企画が任せられたの。 |
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老人ホームでレクレーション?何をやるんだ? | |
・・・・ ・・ |
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テーブルトークRPG♪ | |
老人ホームでTRPG!? | |
うん♪ お年寄り相手にTRPGで遊ぶの♪ |
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老人ホームのレクレーションでTRPGを取り入れてる所があると聞いた事はある。 | |
マジでやるのか? |
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マジマジ。 | |
計画を立てたのはお姉ちゃん。 私は助っ人に来たプレイヤー。 60Gちゃんはゲームマスターだよ。 ※ゲームマスターとはTRPGの進行を取り仕切る人物のこと |
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俺がゲームマスター!? | |
なんの準備もしてねーよ! どういう無茶ぶりだそれは! |
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60Gちゃんなら即興(そっきょう)でゲームマスターができるよね。 |
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できるけど…… 老人相手は初めてだ…… |
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良い人生経験になると思うの! | |
さっそく老人ホームに突入するよ! メスは60Gの手をぐいぐい引っ張りながら老人ホームに突入した。 ・・・・ ・・ 【老人ホーム フタツメ園(えん)受付】 午前11:40分 老人ホーム フタツメ園(えん)受付。 |
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洋風で明るい色の老人ホームなの♪建物は綺麗だけど生活感を感じるね♪ | |
受付に女銃鹿がいるな。 | |
女銃鹿(めじゅうか)と介護職員(かいごしょくいん)が、受付でメスと60Gを出迎えた。 |
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お友達が来たようだね。 | |
ええ。 心強い助っ人です。 |
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介護職員(かいごしょくいん)は60代後半の人がよさそうな小太りなオバちゃんだった。 人のよいおばちゃんは老人ホームでは貴重な存在である。 |
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いやっほぉーお姉ちゃん! 助っ人にきたよ! |
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はじめまして六十神(むそじがみ)と申します。 | |
60Gと読んでください。 60Gは介護職員に丁寧(ていねい)なお辞儀をした。 |
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女銃鹿の妹メスだよ! 今日はよろしくお願いしますなの! |
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60G君にメスちゃんね。 今日はよろしくね。 |
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介護職員(かいごしょくいん)のおばちゃんが気さくに笑いかけた。 |
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二人とも無理に呼んですいません。 | |
気にすんな。 女銃鹿(めじゅうか)が元気で何よりだ。 |
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今回は老人ホームのレクレーションでTRPGをやることになりました。 | |
60Gにはゲームマスターをお願いしたいのですが…… |
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まーやるけどよ。 | |
老人とTRPGを遊んだ経験がないから、うまくいくかどうか分かんねーぞ。 |
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驚くほど問題ないの♪ 元気に話せば絶対にうまくいくよ♪ |
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元気にやればうまくいくか… | |
そうかもしれんな。 |
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・・・・・・ | |
私がお年寄りコミュニケーションのお手本を見せてあげるよ♪ | |
メスは周囲を見回し、受付の近くに座っていた老婆(ろうば)を発見した。 そして老婆に駆(か)けより、老婆に話かけた。 「老婆(ろうば)」 |
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はじめましてお婆ちゃん! 女銃鹿の妹メスだよ! |
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あーあー。 はじめまして。 |
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鬼頭(きとう)ヨネと申します。 |
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私は昔、蚕(かいこ)さんから取れる糸で商売をしててね。1人の息子を私1人で育てたんじゃよ | |
息子は今、警視庁刑事部捜査一課で刑事をやっておるよ。 週に4回会いに来てくれる。 |
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おー会話になってるな。 思ったより簡単に交流できそうだ。 |
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・・・・・・ | |
へー。 良い息子さんなのー。 |
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それでね・・・ |
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あーあー。 はじめまして。 |
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鬼頭(きとう)ヨネと申します。 |
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私は昔、蚕(かいこ)さんから取れる糸で商売をしててね。1人の息子を私1人で育てたんじゃよ | |
息子は今、警視庁刑事部捜査一課で刑事をやっておるよ。 週に4回会いに来てくれる。 |
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??? | |
??? | |
同じ話をくりかえしてるの! |
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あーあー。 はじめまして。 |
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鬼頭(きとう)ヨネと申します。 |
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私は昔、蚕(かいこ)さんから取れる糸で商売をしててね。1人の息子を私1人で育てたんじゃよ | |
息子は今、警視庁刑事部捜査一課で刑事をやっておるよ。 週に4回会いに来てくれる。 |
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エンドレスで同じ話なの。 どういうことかな? |
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もしかしてゲームにでてくるNPCかな? ・・・・ ・・ ちがいます。 |
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これは認知症(にんちしょう)です |
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認知症(にんちしょう)? | |
ボケて、少し前に話した会話を忘れてしまったんですよ。 | |
話す ↓ 話した内容を忘れる ↓ 最初から話す ↓ 話した内容を忘れる ↓ 最初から話す それをエンドレスに繰り返しています。 |
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これは新体験なの。 | |
俺はボケたジーさんバーさん相手にTRPGをやるのか? | |
難易度がナイトメアモードだな。 |
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とってもレアな体験をしてしまったの。 絵日記に残しとくよ。 |
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レアな体験じゃないわよ。 | |
認知症の老人はそこらじゅうにいるわ。 |
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がーん! 全然知らなかったの! |
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年を取れば多かれ少なかれボケるよな。 | |
身近な事でも知らない事ってたくさんあるんだね。 | |
勉強になったの。 |
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私も認知症のことは何も知りませんでした。 | |
ホームヘルパーの勉強をして初めて知りました。 年を取ればオムツに頼って当然とか… 嚥下(えんげ)障害の理屈も… 年寄りの肌の弱さすら知りませんでした。 |
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・・・・・・ | |
・・・・・・ |
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ビックリするほど無知ですよね。 | |
私は人間の事を何も分かっていなかった。 |
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女銃鹿。 | |
私みたいな無知な人間に人を裁(さば)く資格なんてなかった。 | |
ほんとうに私は愚かだ。 |
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私はもっと人間を知ってから、人間を裁くべきだった。 | |
女銃鹿は真っ青な顔で自分を責めた。 |
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認知症を知らない事と、お姉ちゃんの大失敗は別の問題だと思うの。 | |
失敗したことをまだ引きずってるのか? | |
私は私の失敗を許しません。 | |
それでも私は生きて… 学んで… 正しい道を探します。 |
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・・・・・・。 | |
・・・・・・。 | |
・・・・・・。 | |
女銃鹿はうつむいた。 メスも60Gもかける言葉が見つからなかった。 周囲に重苦しい空気が流れた。 ・・・・ ・・ |
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TVなの! TVをつけて気分転換なの! |
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重苦しい空気に耐えかねたメスは、受付の中に入り、受付の奥にある事務室にズカズカと侵入した。 |
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あんたかなりずーずーしい子だね。普通は怒られるわよ。 | |
暗い顔をしても意味ないの! TVでも見て気分転換だよ! |
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メスは事務室にあるTVの電源を入れ音量を上げまくる。 ・・・・ ・・ TVからニュースが流れてきた。 |
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本日昼、老人ホームサイショ園で20個の隕石が落ち、20人の老人が死亡する事故が起きました。 |
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TVでは20人の老人が隕石で死んだ事件が報じられていた。 隕石で屋根に穴が開いた老人ホームが映し出されている。 「事件が起きた老人ホーム サイショ園」 |
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がー! いきなり不吉な事件なの! |
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あーこれはやな事件だねー。 | |
隕石(いんせき)? 隕石が老人に落ちた? |
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かなりショッキングな事件だった。 女銃鹿達は我を忘れニュースにくぎ付けになった。 |
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20個の隕石が落ちて20人の老人が死んだ? | |
物凄い偶然(ぐうぜん)だな。 本当に事故なのか? |
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(グノーシャの犯行かな?) | |
(グノーシャの可能性もある。だが隕石を落とすグノーシャは聞いた事がないな) |
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(・・・・・・) | |
やれる ・・・・ ・・ 私と男銃鹿(おじゅうか)なら殺(や)れる。 これはシューティングスターかもしれない。 「男銃鹿(おじゅうか)」 |
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(シューティングスターとは∞射程による銃撃の1つ) | |
地球の周回軌道には、洗濯機サイズからソフトボールサイズの小天体が周回しています。 シューティングスターとは、銃撃で小天体を叩き落とし… 小天体を人の頭に落とす技です。 |
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(技の性質はスペースデブリ跳弾に似ていますが) | |
シューティングスターのほうが貫通力と殺傷力がはるかに高い。 |
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お姉ちゃんが絶賛沈黙中(ぜっさんちんもくちゅう)なの。 | |
どうした女銃鹿? 犯人に心当たりがあるのか? |
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(シューティングスターが使えるグノーシャは男銃鹿(おじゅうか)と私だけです) | |
私は2ヶ月間銃を使っていない。 だったら犯人は… 男銃鹿? 「男銃鹿(おじゅうか)」 |
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お姉ちゃん犯人に心あたりがあるのかな? | |
・・・・ |
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(いや、決めつけちゃ駄目だ!) | |
私の知識だけで犯人を決めつけるのは危険すぎる。 私の早とちりが悲劇(ひげき)を生む可能性もある。 |
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どうしたんだい女銃鹿ちゃん。 | |
女銃鹿。 さっきから何を考えてる? |
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マジで犯人に心当たりがあるのか? |
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いえ。 | |
いろいろ考えましたが、犯人に心当たりはありません。 気にしないで下さい。 |
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・・・・・・。 | |
・・・・・・。 | |
そりゃあ心当たりあるわけないじゃないの。 | |
介護職員のおばちゃんは苦笑いをしながら、腰を破壊するような勢いで女銃鹿の腰をバシバシ叩いた。 |
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もちろんです。 | |
というか、こんなにバンバン叩かれたら腰がクラッシュします。 ホームヘルパーは腰が命です。 やめて下さいお願いします。 |
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(犯人はお姉ちゃんの知り合いかな?) | |
(なんか引っかかるな) | |
追及(ついきゅう)したいが、今の女銃鹿は追及(ついきゅう)しずらい。 |
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(凄く嫌な予感がしますが……気のせいですよね?) | |
女銃鹿(めじゅうか)は不吉な予感を感じていたが、その予感をスル―した。 今の女銃鹿は自分自身を信じていなかった。 ・・・・・・ ・・・・ ・・ |
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「とあるビルの屋上」 2時間後。 とあるビルの屋上。 2人のグノーシャがビルの屋上で情報収集をしていた。 「2人のグノーシャ」 |
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とりあえず1200万人の老人がどこにいるか把握した。 | |
2人のグノーシャは∞視点を使い、日本中に住む老人の居場所を調べていた。 ※∞視点とは好きな場所に視点を置く能力。どんな離れた場所でも見る事ができる。 |
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老人の居場所を把握(はあく)するだけでかなりの労力だな。 | |
居場所を把握するまでは我慢だ。 | |
老人の居場所が把握できれば36バレルプロトタイプで瞬殺(しゅんさつ)できる。 男銃鹿はビルの屋上に設置してある、奇妙な機関銃をながめながら答えた。 「奇妙な機関銃」 |
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メタルストーム社製36バレルプロトタイプか。 | |
1分間に162万発の弾が発射されるバケモノ機関銃だな。 ※メタルストーム社製 36 barrel prototypeは実存する機関銃。 世界最高の連射速度を持つ機関銃と言われていた。(2008年ぐらいまでは世界最高だったけど、今は世界最高じゃない可能性もある) |
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人間には使い道のない趣味の一品だが、俺なら有効利用できる。 |
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36バレルプロトタイプなら13分で2000万人の老人が殺せるな。 |
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そうだ。 | |
たった13分で、日本の高齢化問題が全て解決する。 |
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