第33話 | |
ワシが娘を守る。 父親のワシが守らないと・・・ |
鋸挽き(のこぎりびき)であなたを処刑しましょう。 | |
(やめろ………やめろ……!) |
【雑木林の中】 島の東部。 雑木林の中。 |
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こんな奴に処刑させられる? |
跳弾ちゃんは絶望していた。 満身創痍で動けない。 空中には国ノ塊(くにのかたまり)という化物が浮遊している。 「国ノ塊(くにのかたまり)」 そのうえ肉色の戦闘機が、島の上空を縦横無尽に飛行し国ノ塊を守護していた。 「肉色の戦闘機」 |
戦力差がありすぎる…… 体が……動かない。 |
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動けないようですね。 ではユックリと死刑を興じましょう。 |
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(やめろ!) |
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何か方法はないのか! この窮地を突破する方法は! |
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むん。 |
痩男(やせおとこ)が力む。 その刹那… 国ノ塊から、肉でできた2mの人形が地面に排出された。 「肉でできた人形」 |
なんだ…? あれは? |
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肉でできた処刑人です。 処刑人があなたを処刑する様を、国ノ塊から拝観します。 |
実に楽しみだ。 |
(やめろ!やめろ!) |
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なぜおまえはここまで最悪なんだ? | |
最悪を演じているのです。 |
肉でできた人形がゆっくりと跳弾ちゃんに歩み寄る。 肉でできた人形の手には「肉でできたノコギリ」が握られていた。 |
(頼むやめてくれ……ワシの大事な勇気を傷つけないでくれ) | |
楽しみだ。 |
肉でできた人形が跳弾ちゃんを見下ろせる距離まで接近した。 |
地獄に堕ちろ! |
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ふふ♪ |
跳弾ちゃんはうつぶせの状態で倒れていた。 肉でできた人形は跳弾ちゃんを片足で転がす。 転がされた跳弾ちゃんはあおむけの状態になった。 |
私は歓喜している。 死刑より楽しい娯楽はこの世界にはないのかもしれない。 |
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うう…… |
肉でできた人形が、ヒザをついて跳弾ちゃんの頭部を片手で押さえた。 そしてノコギリを跳弾ちゃんのノドにあてた。 |
たす……け…… |
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さよなら跳弾ちゃん。 |
跳弾ちゃんのノドにあてたノコギリが前後に動き… 跳弾ちゃんの肉を削る! |
っあ… |
ノコギリで切られた痛みは想像を絶するものだった。 ナイフで切られた痛みよりも… 銃で撃たれた痛みよりも… はるかに痛い! たとえるなら首に落ちた稲妻が、神経を根こそぎ破壊するような感覚。 |
ああ… ああ あ!! |
ノコギリは切り口をぐちゃぐちゃにする。 首の神経を無茶苦茶に削る。 強すぎる痛みは痛みだけで人の呼吸を停止させる。 |
・・・・・。 |
跳弾ちゃんは血の泡を吐きながら気を失った。 跳弾ちゃんの意識が停止しても…ノコギリは跳弾ちゃんの首を切り続ける。 血をまき散らしながら切り続けた! |
やめろー! やめろー! |
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ふむ……木を切るよりも簡単だ。 人間はこんなにも脆(もろ)いのか。 |
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ワシが娘を守る。 父親のワシが守らないと… |
島乃守(しまのまもり)は3か月前に娘と話した事を思い出した。 ・・・・・・ ・・・・ ・・ |
「島乃守の自宅」 |
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ワシ…… 娘と友達感覚でTVゲームばっかしてていいのかなー? |
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島乃守は島乃桜の部屋にあるTVゲームで遊んでいた。 ゲームがタワーのように積まれた、ゲームだらけの部屋。 この部屋を見て少女の部屋だと思う人間はこの世界にいないだろう。 |
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あーやばいかもねー。 | |
ワシ…… 娘にあんまり怒らないし…… |
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放任主義でいいのかなー? |
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人としてやばいかもねー。 | |
どうしよっか? どういう教育方針で娘を育てよう? |
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娘に教育方針を聞くパパの存在が恐ろしいの。 | |
こんなワシだけど…… | |
2人の娘は良い子に育って大変嬉しい。 |
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パパはお仕事とか頑張ってるし…… 多趣味でおもしろい所が良かったんだと思うよ。 |
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パパが娘にしてやれることって何だろう? |
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なぜそれを娘の私に聞くんでしょうか? | |
娘が犯罪者に襲われて大ピンチの時に… | |
さっそうと現れて、娘を救出するパパはどうかなー? |
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現実的に考えると難しいね。 犯罪者と戦うのは警察さんの仕事だよ。 |
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だよなー。 | |
【雑木林の中】 現在。 雑木林の中。 |
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だ……よな…… ワシ喧嘩弱いもん。 |
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? | |
でも…… やれることだけはやらないとな。 |
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さっきから何をブツブツ言っているのですか? | |
あなたの大事な人がノコギリで首を切られていますよ。 |
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いま…… | |
ん? | |
・・・・・・ ・・・・ ・・ いまげんざいをもってしょうあくした。 |
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何を掌握したのですか? | |
もっと早く掌握していれば、誰も死なないですんだ。 | |
??? | |
どういうことですか? |
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移ったんだ。 | |
・・・・・・ ・・・・ ・・ |
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肉体の主導権はワシに移った! |
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な、なに!? |
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悪魔よ! ワシと一緒に死ね! |
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島乃守が吠えた! 島乃守が大きく吠えた! 吠えると同時に上空をアブのように飛んでいた肉色の戦闘機が一斉に方向を転じ… 国ノ塊に向かって特攻した。 |
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しまっ…… 肉体の主導権を8割奪われた。 |
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全戦闘機につぐ! 全てのミサイルを放て! |
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空中に浮かぶ丸い肉玉を撃墜せよ! 350機の戦闘機からミサイルが一斉に放たれた。 ミサイルの排気煙が空に千の軌跡を残す。 千のミサイルが「国ノ塊」に向かって突撃した! |
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どうやって肉体の主導権を奪った? どうやって戦闘機を動かした? |
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肉色のミサイルが国ノ塊に命中した! 千のミサイルがなだれ込むように国ノ塊を爆撃する! |
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おまえが調子にのって話している隙に、おまえの心をのぞかせてもらった! | |
体を動かす手段も… 戦闘機を動かす手段も… そこから学んだ! |
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なんだと!? | |
おまえはやっぱり愚か者だ! 戦いというのは強ければ勝てるなんて、そんな単純なものではない! |
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どんな強い人間でも世の中をなめた瞬間…… 自分より弱い人間に足元をすくわれる。 |
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おまえはそんな簡単な事も分からない愚か者だ! | |
人間がこれほどやるとは。 | |
罪がない人を処刑した犯罪者も… 罪がない人を処刑した国も… |
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いつまでも調子に乗ってられると思うのなら…… 大きな間違いだ! |
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ぐっ…… | |
ワシと一緒に沈め! | |
ミサイルが破裂する! ミサイルが炸裂する! ミサイルが爆焼する! ミサイルが誘爆する! 千のミサイルが国ノ塊を黒焦げにした! |
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国ノ塊が沈む。 私の命が粉々になる。 |
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黒焦げになった国ノ塊が黒煙を上げながら、ゆっくりと下降した。 空を飛んでいた肉色の戦闘機はきりもみをしながら次々と落下していく。 跳弾ちゃんの首をノコギリで切っていた肉でできた人形は、前のめりに倒れ動かなくなった。 |
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ワシの勝ちだ! | |
まさか善知鳥(うとう)の親鳥に殺されるとは…… これが生類殺生を重ねた者の死に業(しにごう)なのですね。 |
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黒焦げになった国ノ塊が雑木林に落下した。 黒焦げになり、炭化した国ノ塊が落下の衝撃で粉々に崩れる。 |
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あんたの小難しい言葉はうんざりだ。 | |
さっさと地獄に堕ちろ。 そして地獄の底で反省しろ。 |
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それが私の本懐です。 | |
私は地獄に落ちる。 そして地獄の底で演技する。 |
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まだそんなことを… | |
私は痩男。 | |
∞に狂気し… ∞に悲しみ… ∞に疲弊し… ∞に痩せ… ∞に演技する。 それが私の存在意義です。 |
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・・・・・。 | |
ピキッ… | |
島乃守の頭部に憑りついていた痩男が粉々に砕けて… 消滅した。 |
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分からない。 あんたの小難しい言葉は何も分からないし、分かりたくもない。 |
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なぜワシにこんな化物がとりついたんだ? ワシはこれからどうすればいい? |
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ぐっ…… | |
島乃守が涙を流し… 自分を責めた。 |
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