第28話 | |
60G「これが痩男(やせおとこ)の目的か…悪の形としては、ある意味究極かもな」 |
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スペースデブリ跳弾… スペースデブリ跳弾… |
【島の高台】 蜻蛉斬りと痩男は島の高台で交戦中。 |
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敵の数……20。 全て私と同じ外見。 敵の発生元は不明。 |
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蜻蛉斬りは、蜻蛉斬りと同じ外見をした20人の少女に囲まれていた。 全てニセモノの蜻蛉斬り。 全て痩男が変身したニセモノだった。 「ニセモノの蜻蛉斬り」 20人のニセモノ蜻蛉斬りは、全員「豊和M300」という狩猟用ライフルを装備している。 |
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全員スペースデブリ跳弾を放てー! | |
20人のニセモノ蜻蛉斬りは、ライフルの銃口を天空に向け発砲した。 発砲した銃弾の数… 合計40発! |
放たれた40発の銃弾は… 瞬く間に大気圏を越え… 地球の衛星軌道にあるスペースデブリに衝突! 衝突した銃弾は下に跳ね返り、地上にいる蜻蛉斬りに向かって真っすぐ降下した。 |
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∞射程もつかえるグノーシャ。 | |
痩男は猟師の役にも使われます。 ∞射程の銃撃は得意分野です。 |
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スペースデブリに衝突した40発の銃弾が、蜻蛉斬りに降り注ぐ! 鉄砲雨のような黒い鉛の雨が、蜻蛉斬りに降り注ぐ! …が、蜻蛉斬りには効かない。 |
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∞迎撃。 | |
蜻蛉斬りがそうつぶやくと… 降り注いだ40発の銃弾は、上空3mで緊急停止! 全ての銃弾は真っ二つに割れ… 真っ二つに割れた弾丸は、粉末状になってこの世から消えた。 |
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∞迎撃ですか? ∞視点、∞防御、∞射程、∞威力、∞機動も使いましたよね? |
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随分と能力が多い。 |
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まぁ理屈では∞に∞の力が使えるグノーシャなんで。 | |
何者ですか? グノーシャは2~4個の能力しかない筈(はず)ですよね? |
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私は物量で攻め込む戦争屋みたいなモノ。 真っ向勝負で負ける相手はいない。 |
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だから……何者ですか? | |
本当に蜻蛉切(とんぼきり)のグノーシャなんですか? |
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私は……ね。 | |
蜻蛉斬りは会話しながら、ゴルフバックから1本の小型ミサイルを取り出した。 小型ミサイルの側面には「御手杵(おてぎね)」という銘が刻まれている。 |
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何者か分かりませんが。 無茶苦茶なグノーシャなんですね。 |
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そもそもグノーシャそのものが無茶苦茶。 ∞の力を使う時点で無茶苦茶。 |
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確かに。 | |
その上・・・ | |
グノーシャはいくつかの物理法則を無視している。 |
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? | |
たとえば∞射程を持つグノーシャが、光速を越える早さの弾丸を撃ったとする。 そんなことをしたら弾丸の質量が無限にふくれあがってブラックホールが発生。 |
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そしてブラックホールに巻き込まれて太陽系は崩壊。 人類は全てアボーン |
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・・・・・。 | |
しかしブラックホールは発生しない。 我々グノーシャの∞能力は最初っから無茶苦茶。 |
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グノーシャの存在そのものが… この世界のモノとはとても思えない。 |
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確かに無茶苦茶ですね。 | |
グノーシャが無茶苦茶だという事実を踏まえたうえで実戦。 | |
蜻蛉斬りは側面に「御手杵(おてぎね)」という銘が刻まれた小型ミサイルを、槍投げ機に装填し… 槍投げ機のグリップを右手でつかんで構えた。 |
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戦闘再開ですか? | |
装填した小型ミサイルの名前は御手杵(おてぎね) 御手杵の能力は∞質量。 |
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今から御手杵(おてぎね)の重量を地球の4倍にする。 |
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はぁぁぁ? 地球の4倍? |
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小型ミサイルの重量が地球の4倍になったら、地球がバラバラになるかもしれない。 ブラックホールが発生するかもしれない。 |
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スケールが大きい話ですね。 | |
しかし物理的にそうなる可能性があってもグノーシャが実践すると違う結果になる。 | |
さっそく実戦。 |
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まて! ここで∞質量を実践するのか? |
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むげん・・・ | |
まてまてまてまて! 蜻蛉斬り! やめろ正気か! |
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∞ 質 量 |
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蜻蛉斬りが∞質量とつぶやいた瞬間。 槍投げ機に装填された小型ミサイルの先端が… 24000000000兆 トンになった。 |
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!? | |
槍の先端から強力な引力が発生。 周囲50mの全ての物体は、槍の引力に引き寄せられる。(蜻蛉斬りを除く全ての物質が引き寄せられる) |
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死ね。 | |
槍の引力に引き寄せられた全ての物質は… ミサイルまであと2mの距離まで引き寄せられると、粉々に分解した。 高台も分解した。 周囲の木々も分解した。 周囲の土も分解した。 |
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貴様なにものだぁ! | |
槍の引力に引き寄せられた、20人の痩男も分解した。 引力に肉体を引っ張られ、粉々になって分解した。 |
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抹消完了。 | |
蜻蛉斬りが攻撃の終了を宣言すると… 槍から発生した引力が消失した。 |
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・・・・・。 | |
蜻蛉斬りが周囲を見回す。 周囲50mの全物質は、砂粒サイズになるまで分解されている。 |
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このように周囲50mの物質が、引力に引っぱられてバラバラになる | |
痩男の死を確認した蜻蛉斬りは… ポケットから携帯電話を取り出し60Gと通話した。 |
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はい。 60Gです。 |
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うん……私。 | |
蜻蛉斬りさんですか? いま凄い地響きがしましたよね。 |
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もしかして∞質量を使いましたか? |
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うん。 強力そうな敵だったから… |
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地球4個分の重量から発生する引力で、粉々にした。 |
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相変わらずチートキャラですね。 | |
そうでもない。 みんなが協力してくれたおかげ。 |
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敵を処刑したんですよね。 さっそく帰還しますか? |
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まだ。 |
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私が殺したのはオトリの可能性が高い。 | |
全ての事情を詳しく教えて下さい。 痩男ってのは何者ですか? |
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・・・・・。 | |
【善知鳥(うとう)】 ここは島の高台があった場所。 周囲は砂粒サイズに分解された木々や高台、そして敵の血肉が散らばっている。 敵を撃破した蜻蛉斬りは携帯電話で、60Gと通話していた。 |
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では痩男のことを順番に説明ー。 | |
お願いしますよ。 状況を把握してるのは蜻蛉斬りさんだけなんですから。 |
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「痩男のこと」 |
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まず痩男はニセモノのお父様に変身して、私と60Gをこの島に向かわせた。 | |
ま・・・まじですか? 痩男が300人の島民を全員殺したというのも嘘ですか? |
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ある程度は殺したと思う。 でも全員殺したというのは大嘘。 |
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途中で生きの良い少女に出会った。 彼女は死んでなかったし。 痩男が化けたニセモノではないと思う(……たぶん) 「生きの良い少女」 |
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なんでそんな嘘までついて俺達を島に呼び寄せたんですか? | |
私達にリアルタイムで島の惨状を見せたかった。 | |
そして私達に、ぶっ殺されたかった。 |
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え!? なんでそんなことをするんですか? どMですか? |
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話が長くなるけどOK? | |
OKです。 | |
まずポイント①。 痩男は能面のグノーシャ。 能面「痩男」のグノーシャ。 |
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能面「痩男(やせおとこ)」 |
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そこまでは分かります。 | |
では、ポイント②。 島では子供ばかりを殺す犯罪者が徘徊している。 |
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痩男の仕業ですか? 最低だな! |
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子供ばかりを殺しているという情報を入手した私は確信した。 | |
痩男は能の「善知鳥(うとう)」をこの島で演じようとしていると… |
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能の「善知鳥(うとう)」ですか? そいつはどんな話なんですか? |
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能の「善知鳥(うとう)」はこんな話。 | |
むかーしむかーし… 旅の僧がある山から下山した。 その時、一人の不思議な老人に呼び止められた。 老人「私は去年死んだ猟師の霊だ。 私の妻子に私の蓑笠(みのかさ)を届けて欲しい」 旅の僧は、猟師の霊から蓑笠(みのかさ)を受け取り 妻子に蓑笠(みのかさ)を届けた。 |
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(なんか漫画日本昔話みたいだな) | |
旅の僧が妻子の前でお経を唱えると猟師の霊が現れた。 猟師の霊は自分の子供に触れようとした。 しかし近づくことさえできない。 猟師の霊は語る・・・ 猟師の霊「わたしは猟師、私は善知鳥(うとう)の子供を狩り続けてきた」 |
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蜻蛉斬りせんせいー! 善知鳥(うとう)ってなんですか? |
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親子の愛がすごく強い鳥。 善知鳥(うとう)の親が命を捨てて、子を守るなんて話もある。 |
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「善知鳥(うとう)」 |
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善知鳥(うとう)って鳥の名前なんですね。 | |
うん。 | |
猟師の霊「わたしは善知鳥(うとう)の子供をたくさん殺した罪で地獄に落ちた」 地獄では私はキジの姿をしていた。 そして鷹の姿になった善知鳥(うとう)の親鳥に追い回されたのだ。 親鳥はくろがねのくちばしを鳴らし。 銅の爪をとぎたて・・・ 私を責め立てた。 |
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・・・・・。 | |
猟師の霊は旅の僧に、何度も何度も助けを求めた。 そして猟師の霊はどこかに消えてしまった。 |
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猟師の霊はどこかに消えたんですか? その後はどうなったんですか? |
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・・・・ ・・ |
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おしまい。 |
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おしまい!? こんなところでバッドエンドですか? |
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簡単に言えば善知鳥(うとう)という話は… | |
親子の愛が強い善知鳥(うとう)の子供をぶっ殺しまくった猟師が…… 地獄に落ちて苦しむ話。 |
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悲惨な話すぎる。 | |
能では「猟師の霊」を演じる役者が「痩男の能面」をつけている。 | |
善知鳥(うとう)は把握しました。 それで痩男の目的は何なんですか? |
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痩男は子供ばかりを狙って殺した。 | |
それは善知鳥(うとう)にでてくる猟師の霊も同じ。 猟師の霊は善知鳥(うとう)の子供を狙って殺した。 |
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善知鳥(うとう)にでてくる猟師の霊は、善知鳥(うとう)の子供を殺しまくって地獄に落ちた。 | |
痩男(やせおとこ)は、島民の子供を殺しまくって、地獄に落ちようとしている。 |
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なんのためにそんなことをするんですか? | |
痩男は能面のグノーシャ。 芸に使う道具のグノーシャ。 |
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痩男は舞台がやりたかったと思う。 舞台をやるんだったら派手なほうがいい。 だから島を舞台にして島民の命をつかった「善知鳥(うとう)」を演じようとした |
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ようするにイカレクズ野郎の痩男は、本当に人を殺す舞台をやっていると…… |
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題目は善知鳥(うとう) 舞台はこの島。 登場人物は痩男と島民と俺達。 そして痩男の目的は… 善知鳥(うとう)に登場する猟師の霊みたいに、殺しまくって地獄に落ちること。 |
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うん。 そんなとこ。 |
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犯罪やって、刑務所にはいりたいって人間はいますが… | |
人を殺して、地獄に落ちたいという奴がいるんですね。 悪の形としては、ある意味究極ですよ。 |
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能面の痩男(やせおとこ)は能の舞台では、殺生の罪で苦しむ役に使われる。 痩男のグノーシャが悪を演じようとするのは必然かもしれない。 |
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ごちゃごちゃした話でしたが、ギリギリで把握しました。 | |
把握できて何より。 | |
しっかし……こんな少ない情報で答えが導き出せるんですねー。 探偵にジョブチェンジしたらどうですか? |
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1つ大きな問題がある。 | |
なんですか? | |
今まで話したことの80%は私の憶測。 証拠が超少ない。 |
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え? | |
蜻蛉斬りは60Gにツッコミをいれられる前に、素早く携帯の電話を切った。 ・・・・・・ ・・・・ ・・ |
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とりあえず報告完了。 いまから本物の痩男をさがす。 |
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蜻蛉斬りは島の高台があった場所を離れて、島を探索しようとした。 その時…… 蜻蛉斬りの背後からゆっくりとしたテンポの拍手が聞こえてきた。 |
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素晴らしいですよ。 憶測なのに9割正解です。 占い師に転職したらどうですか? |
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痩男!? | |
蜻蛉斬りが振り返る。 蜻蛉斬りの背後には、蜻蛉斬りと同じ姿をした少女が3人立っていた。 3人とも痩男が化けたニセモノだった。 |
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もう少し戦いませんか? 私が善知鳥(うとう)を全て殺すまで。 |
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痩男は笑顔でそう答えた。 見るもの全てを嫌悪させる薄気味悪い笑顔。 痩男は全身全霊で、悪を演じていた。 |
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