第19話 | |
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羽山あきら「殺さなければならない人間が2人……」 |
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犯人の居場所を見つける方法があるのですか? |
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あります。 |
【女銃鹿の自宅リビング】 |
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木村権造が死んだ翌日。 午前7時15分。 女銃鹿は自宅のリビングで羽山アキラと携帯電話で会話していた。 |
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夜銃は必ず仇山的助を警視庁に返却します。 |
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その根拠は? |
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夜銃の目的はカタキ討ちの再現であって、犯罪者の断罪ではないように見えました。 カタキを討つ木村さんを失った仇山的助は、夜銃にとって不要な存在です。 不要になった犯罪者を警察に返却したいと、考えるのが人情だと思います。 |
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なぜ警視庁の返すと考えたんですか? |
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夜銃は警視庁の中を自由に行き来していたんですよね? 夜銃の心情的にも警視庁が一番返却しやすい場所なのでは? |
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分かりました。 どちらにしろこちらも手がかりがありません。 女銃鹿の予測に賭けてみます。 |
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作戦はシンプルです。 私が夜銃を行動不能になるまで攻撃します。 羽山さんは動けなくなった夜銃を捕まえて下さい。 |
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・・・・。 |
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? |
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(つまり、行動不能になった夜銃を殺すチャンスが巡ってきたという事か……) |
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もしもし。 どうしました? |
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(夜銃だけじゃない。仇山もなんらかの形で殺す必要がある) |
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何かあったんですか? |
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いえ・・何もありません。 女銃鹿の作戦でいきましょう。 |
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今度は夜銃を見逃さないようにします。 |
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必ず倒しましょう。 |
【新宿のとあるビル】 |
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ここは新宿の一等地にある高層ビル。 そのビルの30階に「なゐの神衣」の事務所があった。 エグゼクティブと名が付く家具で埋め尽くされた事務所の応接室で「なゐの神衣」は「夜銃」の話を聞いていた。 |
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正直なところ落ち込みました。 |
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? |
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落ち込んだ? あれだけのことをやっておいて、怖じ気付いたのか? |
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怖じ気付くことはありません。 ただ予想以上に人々が、俺の行為を糾弾したので困惑しました。 |
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・・・・。 |
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マスコミが俺のやった事を叩くのは予想できましたが…… YouTubeの書き込みなど、ネットの反応は賛否両論に分かれると考えていました。 |
しかしネットの反応までも、批判意見で埋め尽くされていた。 |
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批判意見一色なのがそんなに以外か? 江戸時代の日本人なら支持する者もいたかもしれないが、現代の日本人が支持する道理はないな。 |
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カタキを討つ「討ち手」と「カタキ持ち」が真剣に戦った結果を潔く受け入れる。 戦いが終われば両者恨みっこ無し。 江戸時代まではその価値観が通用したはずです。 |
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明治政府が「カタキ討ち」を違法にし 、西欧式の処刑制度を取り入れてから日本人の価値観も大きく変化した。 |
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・・・・・。 |
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西欧式の処刑制度は導入直後は、日本人の美意識に合わない部分もあった。 だが日本人は短い時間で価値観を変化させ、新しい処刑制度を受け入れた。 |
【西欧の先進的な処刑制度をとりいれた大日本帝国憲法】 |
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きっかけがあれば、価値観などどうとでも変わるのだよ。 |
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今の日本人は……本当のカタキ討ちを受け入れない。 |
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そうだ。 現実が見えてきたか? |
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・・・。 |
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・・・。 |
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話を聞いて貰いありがとうございました。 これから後始末をしてきます。 |
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ああ……言い忘れた 事があった。 |
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なんですか? |
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多分、お前は殺されるぞ。 |
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・・・・。 |
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現時点で10人のグノーシャがお前の行動に殺意を抱いている。 |
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そうですか。 |
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私は何もしないグノーシャと グノーシャの存在を警察に密告するグノーシャには制裁を加えるが……グノーシャ同士の殺し合いには関与しない。 |
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10人の中に蜻蛉斬り(とんぼきり)殿は入っていますか? |
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あいつの本質は「一揆の弾圧」だ。 おまえの行為に興味など持たない。 |
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一揆の弾圧? よくは分かりませんが……蜻蛉斬り殿は俺を殺そうとはしていないのですね? |
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そうだ。 |
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ならば問題ありません。 10人ぐらいけちらします。 |
夜銃は自身ありげに答えた |
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(夜銃の限界は3人まで……私の限界は100人ぐらい) |
隣の部屋で夜銃からもらった京都土産の「堅焼きの八橋」と「生八橋」を全力で食べながら…… 蜻蛉斬りは当然のように考えた。 |
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【警視庁押収品保管庫】 |
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午前9時15分。 羽山アキラは警視庁にある押収品の保管庫にいた。 羽山アキラは夜銃と戦う武器を確保する為、マフィアから押収した銃器から使えそうな武器を漁っていた。 |
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この中から夜銃に対抗できそうな武器は…… |
ヴィイイ、ヴィイイ 羽山アキラのポケットに入っていた携帯電話が振動した。 |
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はい、羽山です。 |
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女銃鹿です。 どうですか? あれから2時間ぐらい立ちましたが変化はありませんか? |
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同僚に頼んで警視庁の留置所と警視庁の入り口ではりこんでもらっていますが…… 今のところ夜銃がやってくる気配はありません。 |
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そうですか……またかけます。 |
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あ……少し待ってくださいよ。 もう少し話しませんか? |
羽山あきらは銃器をあさりながら、女銃鹿に提案した。 |
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話と言われても話すような話題は…… |
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話題は無しですか? 話題ならいくらでもあるじゃないですか。 |
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そういえば羽山さんに一度聞いておきたいことがありました。 |
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なんです? |
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羽山さんは警察官なのに、どうして私の処刑を協力してくれるのですか? |
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えっと…… 前にも聞かれたかな? |
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はっきりとした答えは聞いていません。 仲間なんですから理由を聞かせてください。 |
羽山あきらは苦笑いをしながら、ロシアンマフィアから押収したAEK-999 通称「アナグマ」と呼ばれる機関銃を、ロッカーから取り出して構えてみた。 |
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【AEK-999 通称「アナグマ」】![]() |
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消音機関銃という専用のサプレッサーがついた珍しい機関銃。 重量は8.74 kg どの程度の消音効果があるか羽山あきらには分からなかったが、羽山あきらはアナグマを使って、夜銃に挑めないか思索した。 |
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羽山さん? |
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女銃鹿は戦隊モノのヒーロー番組を見たことがありますか? |
羽山アキラは慣れない手つきで、アナグマにベルト式の銃弾を装着させ、コッキングレバーを引いて銃弾を装填させた。 |
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戦隊モノのヒーローですか? 見たことありますよ。 私はどちらかというと同じ時間にやっている魔法少女もののほうを好んで見ます。 最近やっている大きいお兄さん向けの魔法少女とかも見てみると面白いですよ。 |
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大きいお姉さんでも見るんですね。 |
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いいじゃないですか。 私はアニメオタクではなくゲームオタクですので……アニメは言うほど見てないほうですよ。 |
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はは♪ ゲームならPS2のサッカーゲームを遊んだことがありますよ。 |
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それで戦隊モノのヒーローがどうかしたのですか? |
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……処刑です。 |
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え? |
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戦隊ヒーローは、最後に必殺技で怪人を処刑していますよね? |
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処刑と言われれば確かに処刑ですね。 |
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理由はそれだけです。 |
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え? それが理由ですか? |
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悪いやつが罰を受けて処分される。 そういう世界が、シンプルで正しい世界だと思うんですよ。 |
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鑑識の羽山さんなら、もっと専門的な理由で私の処刑を支持していると思ってました。 |
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どんなに専門的な知識を身につけて行動しても、根っこにあるのはシンプルな動機だけだと思います。 イデオロギーに縛られた複雑そうに聞こえる考えも、分解すれば案外シンプルな考えだったりするものです。 |
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以外にシンプルなんですね。 |
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女銃鹿が処刑をしている理由は、被害者遺族の救済が目的なんですよね? |
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私は最初からシンプルな理由で処刑をしています。 |
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自嘲気味に考えれば、シンプルで短絡的な俺たちでなければ処刑はできませんよ。 |
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短絡的……ですか? |
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ヴィイイ、ヴィイイ |
羽山アキラの胸にしまってある携帯電話が 突然、振動した。 羽山あきらに頼まれて、警視庁の入り口で見張りをしていた警察官から連絡がきたようだ。 |
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女銃鹿、同僚から電話がありました。 携帯を切らないで口を閉ざして静かにして下さい。 |
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はい。 |
羽山あきらは、女銃鹿の携帯電話と自分の携帯電話を重ね・・・ |
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【二枚に重ねた携帯電話】 |
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同僚と通話した。 |
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羽山か? |
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どうですか? 何か見つかりましたか? |
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いや……何も見てないといえば見てないかもしれないが…… |
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・・・・・。 |
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もの凄く早く動く黒い何かが、警視庁に入ってきたのを見たかもしれない。 |
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なにか曖昧ですね。 |
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いや……目の錯覚の可能性が高い。 もの凄く早く動く幽霊が、もの凄い速度で警視庁の中に入っていったと言われたらお前は信じるか? |
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いやーーー。 信じないかなーー。 |
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だろうな……俺は気になるから警視庁の中を調べてみるが、お前は忘れてくれ。 |
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了解しました。 |
羽山あきらは同僚との通話はやめて、女銃鹿の携帯に出た。 |
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女銃鹿聞こえましたか? |
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間違いなく夜銃ですね。 これから「∞視点」で警視庁の内部を探索します。 |
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見つかったらすぐに連絡を下さい。 |
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・・・・。 |
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夜銃を倒してから連絡します。 ここから先は普通の人間には荷が重すぎます。 |
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し・・しかし。 それでは俺の気が! |
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羽山さんまで死んでしまっては、これからの処刑にさしつかえます。 |
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俺は木村さんの…… |
・・・・・ ・・・ ・ |
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もが。 |
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・・・・。 |
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!? |
羽山あきらの背後で夜銃がたっていた。 夜銃の左手には鞘に収められた日本刀が握られている。 夜銃の右手にはロープでぐるぐる巻きにされ、猿ぐつわをはめられた仇山的助がかかえられていた。 |
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護送車に乗っていた刑事とお見受けする。 仇山的助を返しにきた。 |
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もしもし! 木村さんがどうかしたのですか? |
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・・・・・。 |
羽山あきらが、女銃鹿との通話を素早く切った。 |
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!? |
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そうか…… 直接、俺に返しにきたわけだ。 |
羽山アキラは銃弾を装填したアナグマをかかえるように構え、夜銃に銃口を向けた。 |
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む!? |
ダダダダダダダッ! 強烈な発射音と共に無数の銃弾が撃ちだされる。 強烈な反動が羽山アキラにのしかかり、羽山あきらは顔を歪ませた。 |
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ふっ・・・。 |
夜銃は鞘に収められた日本刀をバトンのようにクルクル回し・・・ 機関銃から吐き出された銃弾を全て受け止めた。 鞘に数え切れないほどの銃弾が埋め込まれる。 人間には到底不可能な人外の御業。 夜銃は全ての銃弾を鞘で受け止めた。 |
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人間業じゃ無理か。 |
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手荒い歓迎だな。 最近の刑事はこんなにも血なま臭いものなのか? |
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木村さんの仇は俺がとる! |
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かたき討ちを望むのか? こんなところに同志がいるとは思ってもいなかったぞ。 |
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お前と同じにするな! どうして木村さんと仇山を戦わせた? |
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木村さんが望んだからだ。 |
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違うな。 おまえがそそのかしたんだ。 |
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くくっ…… |
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なにがおかしい? 木村さんは本当は平和な世界で生きる為に生まれてきた人間なんだよ。 そんな人間に殺し合いなんかさせて何が嬉しい? |
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お前は木村さんの何がわかると言うのだ? 木村さんは犯罪者になる覚悟で、決死の勝負を挑んだのだ。 |
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お前がいなければ、木村さんが死ぬ事にはならなかった。 |
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お前なら木村さんの気持ちが分かるのではないのか? |
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なに? |
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お前は今さっき俺を銃殺しようとしたではないか…… 普通の人間なら回避不可能な銃撃だ。 そしてお前は確かにこう言った。 「木村さんの仇だと…」 |
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それがどうした? |
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お前と木村さんは同じだ。 復讐の為なら人を殺すことができる復讐の戦士なのだ。 |
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木村さんと俺を同じにするな! |
羽山あきらは激高して、機関銃の引き金を引き続けた。 ダダダダダダダダダッ! 無数の弾丸が夜銃に襲いかかる。 |
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ヒィ!! |
夜銃は右手に抱えていた仇山的助を乱暴に捨て…… 刀のツカに手をそえて居合いの構えをとった。 銃弾が、居合いの構えで待機する夜銃に襲いかかる。 |
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・・・・・。 |
銃弾は夜銃の50cm手前で音もなく全て粉になり飛散した。 夜銃は……人間では視認できないような速度の居合い斬りで、全ての銃弾を 叩き 砕き 粉みじん ……にした。 |
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ぐっ・・・・。 |
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お前は木村さんを平和な世界で生きるために生まれてきたといったな? 違うな……そんな人間が仇山的助を殺そうとするものか。 |
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違う! 木村さんは違う! |
羽山アキラは悲鳴をあげるように否定した。 |
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問答不要。 木村さんの真実はただ一つ。 |
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話を聞け! |
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仇山的助はここに置いておく。 用事はそれだけだ。 |
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ま……まて… |
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血なま臭い刑事よ。 お前ならカタキ討ちの必要性が分かるはずだ。 |
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ふざけるな! 誰がお前の理解者などになるものか! |
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言葉ではない。 目を見れば分かる。 |
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目だと? |
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おまえも木村さんと同じ、復讐に飢えた野獣のような目をしている。 |
だから分かるはずだ。 おまえなら、誰よりもカタキ討ちの必要性が分かるはずだ。 |
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!? |
そう言い残すと夜銃は突然姿を消した。 |
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決めつけるなよ。 何を勝手に決めつけてるんだよ。 |
・・・・・ ・・・ ・ |
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決めつけるなー! |
押収品保管庫の中で、羽山アキラは絶叫した。 |
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