∞射程の女銃鹿66話 | |
2014年7月22日。 ∞射程ノ女銃鹿「あなたはこれから人間が出来なかった方法で、処刑にアプローチできるようになる」 |
∞加速!
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∞射程! |
夜の11:00 東京 ブロックがしきつめられた広場 地面に座り込んでいた女銃鹿と、女銃鹿を見下ろす男銃鹿が同時に吠えた! 「ブロックがしきつめられた広場」 |
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(なにがあろうと早撃ちで俺に勝てるモノは存在しない!) | |
男銃鹿は女銃鹿に勝つ自信があった。 男銃鹿は誰よりも早く銃が撃てた。 |
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そして何より 女銃鹿は銃を所持していなかった! 女銃鹿は男銃鹿の銃撃で右手と拳銃を失っていた |
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武器が無ければどうにもならない! 何も無ければ負ける! |
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無限を100万回唱えても手持ちの武器は変化しない! 無限などありはしない! |
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・・・・・・。 | |
詰みだ!女銃鹿! | |
・・・・・・ ・・・・ ・・ |
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どんな時でも選択肢は | |
無限です |
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秒 速 ! |
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∞ km ! |
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銃の引き金を引く音が聞こえた。 撃針が雷管を叩く。 薬莢(やっきょう)の火薬が発火。 ・・・・・・ ・・・・ ・・ 1発の巨大な銃声が… 地球中に鳴り響く! 1発の銃声だけで地球が… 揺 れ た ! |
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! | |
男銃鹿の頭部は、吹き飛ばされた桜の花びらのように四散した! |
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なん…だ…? | |
なにが起きた? この俺が知覚できない? ・・・・ ・・ |
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私の銃撃です。 | |
男銃鹿の頭部を破壊しました |
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銃撃だと? なぜ俺が銃撃を知覚できない? |
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いや… そもそも… どこから銃撃が発生した? |
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女銃鹿は銃を持っていない筈(はず)だ! | |
銃なら頭の中にあるっ! | |
女銃鹿は頭の中にある銃で男銃鹿を銃撃していた。 |
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具脳を使っただと? | |
そんな事をしたらおまえの頭部にも傷がつく。 おまえも… |
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100%死ぬでしょうね。 | |
女銃鹿の頭部は大きな穴が開いていた。 |
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命を捨てた蜂(はち)のひとさし? そこまでして処刑がしたいのか? |
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道連れです! | |
私の命を使ってあなたを処刑します! 女銃鹿は大声で勝利を宣言した。 ・・・・ ・・ |
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そうか、してやられたよ。 | |
だが、残念だったな。 それでも… 俺の勝ちだ |
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・・・・・・。 |
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俺は矛盾やパラドックスを使って複数になれる。 | |
ここで俺が死んでも別の俺が現れるだけだ。 「俺はタイムマシーンと同じ理屈で複数になれる」 |
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・・・・・・。 | |
けっきょく物量に勝る俺の勝ちだ。 | |
銃で撃たれた男銃鹿は真横に倒れ… 2回痙攣(けいれん)してから… 絶命した 死んだ男銃鹿は笑みを浮かべていた。 ・・・・ ・・ |
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複数になれる? だからどうした? |
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だったら殺し尽くせばいい。 状況が変わったんですよマヌケ野郎。 いつまでも上目線で笑っていられると思うなら大きな間違いです。 |
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・・・・・・。 | |
∞射程ノ女銃鹿っ! |
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男銃鹿の全てを処刑しろ! ・・・・・・ ・・・・ ・・ |
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無論全殺です |
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女銃鹿の頭部から放たれた弾丸は「光を吸い込む黒い軌跡」を描(えが)きながら… 地球を何度も周回していた 頭部から放たれた弾丸の名前は ∞射程ノ女銃鹿 彼女は本物の∞を持つグノーシャだった。 「女銃鹿の頭部から放たれた弾丸=∞射程ノ女銃鹿」 |
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∞回処刑してやる! |
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無論! 無論! |
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弾丸の速度は時速∞km! 弾丸は黒い軌跡を残しながら全ての距離を埋め尽くす! 弾丸はあらゆる法則を無視して地球を… ∞ 周 し た ! |
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∞ 報復! 連鎖! 報復 報復! 報復! 連鎖! 報復! 連 鎖 ! |
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弾丸は全ての男銃鹿を殺して回る! |
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!? | |
!? | |
!? | |
!? | |
弾丸はブラジルにいる男銃鹿を殺した! 弾丸はニューヨークにいる男銃鹿を殺した! 弾丸は北極にいる男銃鹿を殺した! 弾丸は茨城県にいる男銃鹿を殺した! |
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処刑! | |
処刑! | |
弾丸はあらゆる時間に移動し、あらゆる時間の男銃鹿を殺し続けた。 |
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!? | |
!? | |
!? | |
!? | |
!? | |
!? | |
!? | |
!? | |
1年前の男銃鹿が∞回死んだ。 2年前の男銃鹿が∞回死んだ。 3年前の男銃鹿が∞回死んだ。 4年前の男銃鹿が∞回死んだ。 5年前の男銃鹿が∞回死んだ。 |
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処 刑 だ ! |
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グチャ。 | |
人間だった頃の男銃鹿が… 母の胎内にいた男銃鹿が… 弾丸で吹き飛ばされ 砕けて死んだ |
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・・・・・・。 | |
・・・・・・。 | |
・・・・・・。 | |
・・・・・・。 | |
ありとあらゆる男銃鹿は絶滅し 男銃鹿が生まれた事実そのものが消えた ・・・・・・ ・・・・ ・・ 男銃鹿を全て殺した「∞射程ノ女銃鹿」は 女銃鹿の耳元で話しかけた |
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男銃鹿の全てを殺し尽くしました。 | |
これで男銃鹿が生まれた事実さえも消えるでしょう |
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ありがとうございます。 けっきょく全てあなた任せでした。 |
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いえ。 良い思い出ができました。 |
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銃弾としての本懐を堪能(たんのう)できた。 これで思い残すことなく、私自身の夢を追いかけられる |
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夢を追いかけられる? | |
ふふ♪ 大事な夢なので秘密です♪ |
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∞射程ノ女銃鹿は秒速∞kmで宇宙に向かって飛んでいった。 |
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永遠にさよならです。 | |
・・・・・・。 | |
∞射程ノ女銃鹿は地球をはなれ… 銀河系をはなれ… ・・・・ ・・ 宇宙の外に飛んでいった 「宇宙の外」 ・・・・・・ ・・・・ ・・ ビルの事務所から女銃鹿の様子を見ていた蜻蛉斬り(とんぼきり)は、驚愕(きょうがく)していた。 「ビルの事務所」 |
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これが本物の無限? 早さが異常すぎる。 |
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マイナスの光速は数学で計算できたが、本物の無限は計算できない。 |
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距離を無限に埋め尽くす計算不能の加速といったところか。 | |
酷いモノを見た。 これを喰らったら誰でも死ぬ。 |
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ゲームのステータスで表現すると… 攻撃力:∞ 攻撃回数:∞ スピード:∞ 射程:∞ …の攻撃になりそうだ。 |
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(ようするにこの世で1番強力な攻撃か……存外つまらんな) | |
そんなものは厨二ノートの裏側に書くだけで十分だ。 ビルの事務所から女銃鹿の様子を見ていたなゐの神衣(ないのかむい)は、本物の∞に失望していた。 ・・・・・・ ・・・・ ・・ 同時刻。 ブロックがしきつめられた広場。 |
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・・・・・。 | |
戦いを終えた女銃鹿は女座りの状態で周囲を見回した。 女銃鹿の周囲は誰もいない。 全ての生物が危険を察知して逃げていた。 |
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・・・・・。 | |
これで終戦ですね みんなが死んだだけで、なんの益も無い不毛な戦いでした。 |
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・・・・・・。 | |
・・・・・・。 | |
・・・・・・。 |
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ホント戦わなければ良かった。 | |
戦いが終わって気が抜けた女銃鹿は 女座りの姿勢から、後ろにパタリと倒れた |
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・・・・・・。 | |
・・・・・・。 |
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老人の命は守れましたが、私は大損ですよ。 | |
メスも60Gも死んで 私も中途半端な所で死にそうです |
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・・・・・・。 |
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いや… けっきょく人間は… |
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中途半端な所で死ぬ生き物なんですかね 女銃鹿は無念だった。 無念だったが肉体がマヒしてるおかげで心が穏(おだ)やかだった。 |
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・・・・・・。 |
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もう少し生きたかった… 生きた先に何があるのか… |
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知りたかった 女銃鹿はひとすじの涙を流して気絶した。 ・・・・・・ ・・・・ ・・ 女銃鹿の体温が34度まで低下した。 体温が32度まで低下した。 30度まで低下した。 女銃鹿の呼吸は止まり危篤(きとく)状態になった |
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・・・・・・。 | |
女銃鹿は眠るように死んだ。 ・・・・・・ ・・・・ ・・ チーズケーキ… |
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私のチーズケーキを食べた汚物は消毒なの! | |
100万回処刑しても許さないの! 夜の12時。 ここは女銃鹿の家。 「女銃鹿の家」 メスの大声が家中に鳴り響き、死んでいたはずの女銃鹿が目を覚ました。 |
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はっ!? | |
夢 か ? 死んだつもりだった女銃鹿が 2階にある自室のベッドで目を覚ました。 「女銃鹿の部屋」 |
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あれ? ここは私の部屋のベッド? |
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え? 何これ? 訴訟レベルの超糞展開? |
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・・・・・・。 | |
女銃鹿は失った筈(はず)の右手を触った。 右手は完全に再生し無傷の状態だった。 穴が開いた頭部も無傷だった。 |
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完全に無傷じゃないですか! 今までの戦いはなんだったのですか! |
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女銃鹿は状況が把握できないでキョドっていた。 ・・・・ ・・ 1階のリビングからメスと60Gの声が聞こえてきた 「1階のリビング」 |
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チーズケーキを盗み食いした人が死刑になる法律が爆誕したの! |
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自首するなら今のうちだね メスはテーブルの上に置いてあるチーズケーキを指差した。 チーズケーキは半分食べられていた。 「チーズケーキ」 |
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おいおい。 そいつは穏(おだ)やかじゃねーな。 |
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1階からメスの声と60Gの声? 2人とも死んだのでは? |
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まさか、新手の死ぬ死ぬ詐欺? |
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とにかくチーズケーキを盗み食いした犯人を特定するの。 | |
見つけてからゴメンナサイを言ってもらうの。 |
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それなら、名探偵犯人の俺に任せろ! |
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名探偵犯人!? | |
俺の推理では… 犯人は… |
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・・・・ ・・ 俺だ! 「俺が犯人」 |
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いきなり自白して解決!? さすが名探偵犯人!? |
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前例のない超スピード解決なの! |
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チーズケーキを食べてすいませんでした。 | |
チーズケーキがうんこになったら返却します。 |
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最低なの! これは絶対に処刑だね! |
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しょけいって初経のことですか? |
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初経と言えば生まれて初めての月経。 女の子の大事な日ですよね。 女銃鹿と初経の思い出をお話したい。 |
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うわぁ… 最低に最低を塗り重ねてるの… |
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くだらなすぎて涙が出てきた… ジョークとして考えても寒すぎる… |
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あまりのくだらなさに女銃鹿は頭をかかえた。 |
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もう許せないね! お姉ちゃんに報告なの! |
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メスは半分になったチーズケーキの皿を自分の頭に乗せた。 |
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まてまて、女銃鹿はシャレが通じないからヤバイ! | |
グーパンで○○○殴られてオカマになっちゃう! |
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(ホントくだらないですね~) | |
おねーちゃん! おねーちゃん! |
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日本をゆるがす大事件なの! 今すぐ起きてなの! メスはチーズケーキの皿を頭に乗せた状態で、2階の部屋に向かって猛ダッシュした。 |
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は…はい… 少し待って下さい… |
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お姉ちゃんノック無しで開けるよ! | |
メスは扉を乱暴に開けて、女銃鹿の部屋に突入した。 |
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!? |
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お姉ちゃん! 恐ろしい大事件なの! |
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女銃鹿の目の前には、男銃鹿に傷つけられたボロボロなメスはいなかった。 女銃鹿の目の前には傷一つ付いていない無傷なメスがいた。 |
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メスの体が完全に健康!? | |
メスの体に傷1つ付いていない? 健康なメスの姿を見た女銃鹿は口を金魚のようにパクパクさせた。 |
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??? | |
そりゃあ… 完全に健康だけど? それがどうかしたのかな? |
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つまり… 戦いなんかなかった… |
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男銃鹿(おじゅうか)とのやりとりは完全に夢の中の出来事? |
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夢の中の出来事? 何の話かな? |
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いえ、夢なら全然OKです。 夢オチならみんな幸せです。 |
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男銃鹿(おじゅうか)との戦いはやっぱり夢だったんですね。 ホント性質(たち)が悪い悪夢でしたよ。 女銃鹿は少しだけあふれた涙を指でぬぐいながら微笑(ほほえ)んだ。 ・・・・ ・・ |
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てかさ、男銃鹿さんって誰かな? | |
初めて聞く名前だね。 |
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え? |
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どこのどちら様かな? 紹介して下さいなの。 |
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メスも男銃鹿に何度か会いましたよ。 | |
いくらなんでも知ってる筈(はず)です! |
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んー知らないね… 会ってれば覚えてると思うの… |
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(メスは男銃鹿を覚えていない) | |
そういえば∞射程ノ女銃鹿が… ・・・・ ・・ |
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男銃鹿の全てを殺し尽くしました | |
これで男銃鹿が生まれた事実さえも消えるでしょう |
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(…と言っていました) | |
男銃鹿が生まれた事実が消えたから… 男銃鹿がいなかった世界に書き変わった? 「男銃鹿のいなかった世界書き変わった?」 |
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・・・・・・。 | |
(男銃鹿から銃を教わった私の技術はどうなるんですかね?) | |
今よりもっと無能になったらシャレになりませんよ 女銃鹿は軽いめまいを起こした。 |
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ねーねー。 何を悩んでるか知らないけどさー。 |
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見て欲しいものがあるの。 |
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なんですか? | |
私の頭に乗ってるチーズケーキのお皿を見て欲しいのっ! | |
お皿の上に半分食べられたチーズケーキがあるよね! メスは頭上のチーズケーキを両手の人差し指でビシリと指さした。 |
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ああ、チーズケーキの話ですか? | |
心の奥底からどうでもいい |
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ガーン!? お姉ちゃんが正義を捨ててしまったの! |
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メスはショックを受けてヘナヘナと座り込んだ。 |
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チーズケーキなら後で買ってあげますよ。 |
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むぅ… むぅ… |
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理屈では納得できても心が納得しないの。 |
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たかがチーズケーキで大騒ぎしないで下さい。 | |
女銃鹿はメスの頭に乗っている皿をチラリと見る… 皿の上にはチーズケーキが乗っていた 「チーズケーキ」 ・・・・・・ ・・・・ ・・ |
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! | |
チーズケーキを見た女銃鹿は真っ青な顔になり、困惑した。 |
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ん? | |
これはいったい… | |
女銃鹿はチーズケーキの皿を見てワナワナと震(ふる)える。 |
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??? |
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これが… | |
半分のチーズケーキ? 女銃鹿は目をこすりながら、何度も何度もチーズケーキを見た。 |
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少し騒ぎ過ぎだね? | |
なんでチーズケーキで驚愕(きょうがく)してるのかな? |
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なんだこれ? 見えている世界がおかしい? |
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目の感度が良すぎる 女銃鹿は両目を押さえ… そのまま座り込んでしまった… |
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お姉ちゃん! どうしたのかな! |
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視点の速さがおかしい… | |
目が動きすぎて目の筋肉が痛い… 目の筋肉が崩壊する… |
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すぐにお医者さんを呼ぶから待っててなの! |
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なんだこれ? なんだこれ? |
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女銃鹿は眼球の苦痛に耐えられなくなり気絶した。 ・・・・・・ ・・・・ ・・ 現在の時刻は夜の12時10分 女銃鹿の体に大きな変化が起きていた
・・・・・・ ・・・・ ・・ |
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同時刻。 宇宙の外。 宇宙の外は色がない無色の世界だった 「宇宙の外(黒い軌跡は∞射程ノ女銃鹿、黒い点は様々な次元の宇宙)」 |
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今ごろ女銃鹿は大きな変化に混乱してるでしょうね♪ | |
宇宙の外で1発の弾丸が秒速∞kmで飛翔していた。 弾丸は∞射程ノ女銃鹿という名前のグノーシャだった 「∞射程ノ女銃鹿」 |
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男銃鹿が生まれた事実を私が消した影響で、現実の中身が変わるでしょう。 | |
そして… 私の∞に触れることで女銃鹿の体質が変化します。 とてもとても大きな変化ですよ。 大騒ぎして当然です。 |
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女銃鹿覚えていますか? | |
私はあなたに… 「よい処刑を与える」と言いましたよね |
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しっかりと与えましたよ。 | |
あなたはこれから人間が出来なかった方法で処刑にアプローチできるようになる 手に入れた方法を活かすも殺すもあなた次第です。 |
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・・・・・・。 |
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より深く… | |
より凶悪に… より聡明(そうめい)に… 死刑が持つ真理を探求して下さい |
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私は遠い宇宙の外であなたを応援しています。 | |
夢を追いかけながら応援します そう言いながら… ∞射程ノ女銃鹿は距離という概念(がいねん)が存在しない宇宙の外をひたすら飛んで行った。 ・・・・ ・・ |
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さてと… | |
私は私の夢を探求することにします。 宇宙の外の外には何があるのでしょうか? ∞射程ノ女銃鹿は誰も届かない場所に飛んでいった。 ・・・・・・ ・・・・ ・・ |
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「高層ビル」 同時刻 夜12時10分。 新宿の一等地にある高層ビル。 「なゐの神衣(ないのかむい)の事務所」 なゐの神衣(ないのかむい)の事務所。 |
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一口飲むか。 | |
なゐの神衣は事務所のデスクに座り、コンビニで購入したカップ酒のフタを開けた。 |
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お父様が人の集まり以外で飲む姿は珍しい。 | |
蜻蛉斬り(とんぼきり)はソファーでTRPGのシナリオを書きながら、なゐの神衣の行動を興味深そうに観察した。 |
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年に1~2回は自分のために飲む時もある。 | |
なにかあった? | |
・・・・ ・・ |
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男銃鹿というグノーシャが予想通り死んだ。 | |
それだけだ。 |
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男銃鹿(おじゅうか)? 聞かない名前? |
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「男銃鹿? 誰それ?」 |
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男銃鹿を覚えているグノーシャは、今や私と女銃鹿だけかもな。 | |
「∞射程ノ女銃鹿」が男銃鹿が生まれた事実を消しさった影響だ。 |
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事実を消し去った? どゆこと? |
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男銃鹿の行動が全て無かったことになっただけだ。 | |
大した変化では無い。 |
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そもそも男銃鹿とは何者? |
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男銃鹿か。 | |
・・・・・・。 |
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(そういえば…) | |
昔、男銃鹿に誘われて14才の少年が手がけた演劇を見たな。 あの時の男銃鹿が男銃鹿の本質なのだろう。 |
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・・・・・・。 | |
なゐの神衣はカップ酒を一口飲み。 昔のことを思い出した。 ・・・・・・ ・・・・ ・・ |
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(4年前、私は男銃鹿に誘われ東京に建てられた劇場に来ていた) | |
「東京に建てられた劇場」 真っ赤な床。 真っ赤なイス。 真っ赤なカーテン。 そこは西欧のクラシックな劇場を模(も)した劇場だった。 ・・・・ ・・ その劇場の1階最前列で男銃鹿と私は14才の少年が手がけた演劇を見ていた。 |
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・・・・・・。 | |
すごい演技力だ。 14才の人間がここまでやれるのか? |
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私はあの時、14才の少年が手がける演劇に感嘆(かんたん)していた。 なりやまない拍手。 号泣(ごうきゅう)する人々。 その演劇は間違いなく天才の所業だった。 |
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どうだ? | |
俺に呼ばれるだけの価値はあっただろう? 100年に1人の天才少年だ。 |
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ふむ。 | |
内容は青臭い部分があるが… 今までにない勢いを感じる。 若い可能性で満ち溢(あふ)れている。 |
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将来が楽しみな少年だろ。 | |
ああ。 | |
将来の大成を期待せずにはいられない。 |
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だろだろ。 | |
普段は冷徹な男銃鹿は、まるで自分の事のように微笑(ほほえ)んでいた。 |
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「今時の若い者は駄目」と言う老人は紀元前からいるが… | |
いつの時代でも優秀で才能のある若者は生まれてくる。 優秀な若者がいる限り未来は明るい。 |
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そう……かもな。 | |
俺は…優秀な若者がなんの足かせもなく羽ばたく姿を見続けたい。 | |
優秀な若者が羽ばたく姿は何よりも美しい。 |
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(なんの足かせもなく羽ばたく?) | |
もし若者の足かせになる敵が現れたら、俺が前に出てその敵を排除してやる。 | |
若者の輝かしい未来は最優先事項だ。 |
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若者の足かせになる敵を全て排除するのか? | |
そうだ。 |
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(考えが青いな) | |
若者の足かせになる敵が、輝かしい未来を持つ若者だったらどうする? なゐの神衣は男銃鹿をニヤニヤ笑いながら見つめた。 |
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なんだよ? 俺がおかしいことを言ったか? |
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普段は冷徹だからヒネた奴だと思っていたが… | |
以外に青いな 青くて… 一本気で… 真っ直ぐ飛ぶ弾丸のようだ ・・・・・・ ・・・・ ・・ 「なゐの神衣の事務所」 現在。 なゐの神衣の事務所。 なゐの神衣はデスクに座りながら男銃鹿の事を思い出していた。 |
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お父様。 | |
黄昏(たそがれ)てないで男銃鹿が何者か教えてください。 |
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む… ああ、そうだな… |
|
・・・・・・。 | |
男銃鹿は… | |
・・・・・ ・・ 真面目な奴だったよ。 真面目にまっすぐ飛んでいったら、デカイ壁にぶつかってあっさり死んだ。 |
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おー。 女銃鹿に似てそう。 |
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なるほど女銃鹿か? 確かに似ている部分もある。 |
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もし女銃鹿が死ぬとしたら、男銃鹿と似た形で死ぬかもな。 |
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女銃鹿はどんな壁にぶつかって死ぬのだろう? | |
さあな。 | |
女銃鹿を殺す壁が私でないことを祈る。 なゐの神衣は窓から見える月を見ながらカップ酒を一口飲んだ。 そして ・・・・ ・・ 少しだけ飲んだカップ酒をゴミ箱に捨てた。 |
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