第63話 | |
2014年6月4日。 男銃鹿「この老人に生きる価値はありますか?」 |
この世界に無限など存在しない。この世界は全て有限。 |
|
一斉射撃準備! 目標は地球の裏側にいる男銃鹿(おじゅうか)ちゃん! |
深夜10:15 東京。 メス、女銃鹿、60Gは、とあるビルの入口前にいた。 「とあるビル」 ビルの入口前はブロックが敷(し)きつめられた広場になっている。 「ブロックが敷(し)きつめられた広場」 |
|
弾倉(マガジン)を装填(そうてん)。 弾倉(マガジン)を装填(そうてん)。 |
|
男銃鹿はブラジル リオデジャネイロの、コルコバードの丘で静かにつぶやいた。 「コルコバードの丘」 |
|
男銃鹿はどこだよ? | |
男銃鹿ちゃんはコルコバードの丘だね。 巨大キリスト像の上にいるの。 |
|
男銃鹿はキリスト像の上に立っている。 「コルコバードのキリスト像」 全長40m近くある巨大なキリスト像。 |
|
男銃鹿!? 男銃鹿の外見が!? |
|
これが物量化!? | |
女銃鹿と応援にきたグノーシャ達が∞視点で男銃鹿を目視(もくし)し… 絶句した! |
|
・・・・・・。 | |
男銃鹿の尾てい骨から 全長13mの巨大な尾が生えている 「全長13mの巨大な尾」 尾は透明な分厚い膜(まく)でできており、尾の中身は溶液で満たされている。 |
|
なんだあの巨大な尻尾(しっぽ)は? 具脳(ぐのう)の一種なのか? |
|
「具脳(ぐのう)=グノーシャの脳」 |
|
尻尾(しっぽ)の先端に36バレルプロトタイプが付いてますね。 | |
尻尾(しっぽ)の先端には36バレルプロトタイプが装着されていた。 「尻尾の先端に36バレルプロトタイプが装着」 尾の内部は36バレルプロトタイプの弾倉(マガジン)がクラゲのようにプカプカと浮いている。 「36バレルプロトタイプの弾倉(マガジン)」 |
|
ノンビリ男銃鹿ちゃんを見学してる暇(ひま)は無いよ。 | |
だな。 | |
36バレルプロトタイプの弾倉(マガジン)を装填(そうてん)完了。 | |
ただいまより攻撃に・・・ |
|
攻撃却下! | |
男銃鹿ちゃんに攻撃される前に一斉射撃! |
|
無駄な事を、資源の無駄づかいだ。 | |
ダメ元でも全力フルスイング! 何度でも再チャレンジ! |
|
60Gに肩車してもらっているメスが前のめりに刀をつきだした! |
|
今度こそぶっつぶしてやんよ! | |
メス! いくぞ! ・・・・ ・・ |
|
弾幕 無理 ゲー ハメ 殺し !! |
|
メスは全力で∞操作を使用! 日本中にいる50人のグノーシャが一斉に飛び道具を使った! |
|
殲滅型スペースデブリ跳弾! | |
地球一周射撃! | |
星間弾道ミサイル! | |
人口太陽投射! | |
銃弾が… ミサイルが… 衝撃波が… レーザーが… 人口太陽が… ブラジルの男銃鹿を急襲した! |
|
加 速 ! |
|
男銃鹿は真っ白な閃光の塊(かたまり)となり、マイナスの光速で疾走! 攻撃を回避した! |
|
やっぱり避(よ)けられた! | |
攻撃を避(よ)けた男銃鹿はどこだ! | |
若いエネルギーの無駄づかいだ。 | |
攻撃を避けた男銃鹿は別の場所に移動していた。 |
|
くっ。 | |
男銃鹿ちゃんがマイナスの光速で走ってるよ。 |
|
マイナスの光速で走ってる? | |
たぶん男銃鹿ちゃんは… | |
移動を開始する2秒前に移動が完了してるの。 スタートする2秒前にゴールしてるね。 |
|
は? | |
は? | |
どういう早さですか? |
|
男銃鹿ちゃんは起きてしまった事を、華麗にスルーできる速度で移動してるね。 | |
理論上、男銃鹿ちゃんには攻撃が当たらないよ。 |
|
(起きてしまった事を華麗にスルーできる速度?) | |
攻撃を命中させる方法は無いのですか? | |
・・・・・。 | |
男銃鹿ちゃんを越えるスピードで奇襲をしかければ攻撃が当たるかも。 |
|
男銃鹿を越えるスピードで奇襲? そんなの無理ですよ! |
|
もしかして詰んだのか? | |
まだだよ。 状況を変えてやるの。 |
|
メスは男銃鹿の気配を探しながら苦悩した。 ・・・・・・ ・・・・ ・・ 同時刻。 男銃鹿はニューヨークにいた。 「ニューヨークの自由の女神像」 男銃鹿は自由の女神像が左手に抱えている独立宣言書の上に座っていた。 「自由の女神像の左手が抱えている独立宣言書」 |
|
これ以上の猶予(ゆうよ)はないな。 | |
男銃鹿は巨大な尾を動かした。 巨大な尾は大蛇のようにヌルりと動く。 尾の先に取り付けられた36バレルプロトタイプの銃口が日本に向けられる。 |
|
メスが俺の位置を特定する前に4万人の老人を殺処分(さっしょぶん)する。 | |
日本の未来のため… 若者の未来のため… |
|
俺が悪鬼となり老人を殺す | |
男銃鹿はニューヨークから日本を睨(にら)みつけた。 |
|
男銃鹿ちゃん発見! ニューヨークの自由の女神像にいるの! |
|
メスが気配から男銃鹿の位置を素早く特定した。 |
|
男銃鹿は何をしてますか? | |
男銃鹿ちゃんの殺気が日本の老人に向けられてる!? | |
ヤバイの! 男銃鹿ちゃんが虐殺(ぎゃくさつ)をはじめそうなの! |
|
罪なき老人を殺す所業は悪鬼の所業。 | |
されど… ここで俺が老人を殺さなければ、日本の若者は老人の重みにつぶされて不幸になる。 |
|
これからオーナスステージに突入する日本の若者を救うために… |
|
※オーナスステージとはボーナスステージの逆のステージ。 ※オーナス(重荷、負担)があるステージの事。 |
|
70歳以上の老人を駆逐する! |
|
やめろぉ! | |
お爺ちゃん、お婆ちゃんにも幸せになる権利があるのぉ・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・ |
|
七 十 の 谷 コ カ シ ! |
|
尻尾の先端についた36バレルプロトタイプが、警報のような駆動音を撒(ま)き散らす! そして… 大量すぎる銃弾が一斉に吐き出された! |
|
こっから先は人がやっちゃいけない領域だよ! | |
まずは東京! 4万5千人! |
|
吐き出された銃弾の数は4万5000発 全銃弾がマイナスの光速で飛翔した! |
|
おい? 何が起きた? |
|
日本に押し寄せてくるアレはなんだ? レーザーと化した銃弾の束(たば)? |
|
白く光る横殴りの暴風雨? | |
男銃鹿が放った4万5000発の銃弾はレーザーの束のように見えた。 |
|
みんな逃げてなのぉぉ! | |
誰も逃さない! | |
男銃鹿の放った弾丸は建物を貫通。 老人を襲う! |
|
パン! | |
パン! | |
パン! | |
パン! | |
500発の銃弾が老人達の頭に命中 老人の頭部が粉々に砕け散った! |
|
パン! | |
パン! | |
砕け散った頭部はまるで花火。 血と肉片が飛び散るおぞましい花火だった。 |
|
パン! | |
パン! | |
パン! | |
パン! | |
老人の頭部に次々と銃弾が命中する。 老人の頭は連続で爆発する爆竹のようにも見えた。 |
|
お願いなのぉ! なんでもするからもうやめてなの! |
|
メスは頭皮を両手でつかみ絶叫した。 |
|
パン! | |
パン! | |
パン! | |
パン! | |
パン! | |
パン! | |
パン! | |
パン! | |
東京に住む・・・ 1000人の老人が銃撃で死んだ。 2000人の老人が銃撃で死んだ。 3000人の老人が銃撃で死んだ。 4000人の老人が銃撃で死んだ。 5000人の老人が銃撃で死んだ。 |
|
お爺ちゃんの頭が吹き飛んだ!? | |
母さんの頭がヘッドショットを喰らったように消えた!? | |
50歳でニートの俺は母親を失ったらどうやって生きてけばいいんだ! |
|
おばーちゃん! おばーちゃん! |
|
殺された老人の遺族達が悲鳴をあげる。 遺族の中には老人の死を笑うものもいた。 |
|
パン! | |
パン! | |
パン! | |
パン! | |
パン! | |
パン! | |
パン! | |
パン! | |
1万人の老人が銃撃で死んだ! 2万人の老人が銃撃で死んだ! |
|
こんなの誰も望んでない。 | |
・・・・・・・。 | |
女銃鹿はあまりのできごとに声が出ない。 恐怖で何も考えられなかった。 |
|
パン! | |
パン! | |
パン! | |
パン! | |
3万人の老人が死んだ 4万人の老人が死んだ |
|
逝(い)けぇ! | |
もし銃弾地獄という地獄があるのなら、今が銃弾地獄なのだろう。 男銃鹿は銃弾地獄に住む悪鬼なのだろう。 |
|
パン! | |
老人が沢山死んだ。 残された家族は涙を流した。 ありえない数の命が消え…… 家族の悲鳴と絶叫は道路を走り… 自動車の音さえもかき消した。 ・・・・・・・ ・・・・・ ・・ |
|
4万5000人の老人を殺傷。 クールダウンに入る。 |
|
36バレルプロトタイプは大量の熱と硝煙を放出している。 男銃鹿は36バレルプロトタイプをクールダウンさせるために攻撃を一旦(いったん)中止した。 |
|
ほんの一瞬だぞ… 一瞬でこんなに殺せるのか… |
|
人が死にすぎてる… 完全に手遅れ… |
|
女銃鹿は歯をカチカチと鳴らしながら、男銃鹿の所業に恐怖した。 |
|
男銃鹿ぁ! てめぇぇぇ! |
|
絶対に許さないのぉぉ! | |
メスと60Gが怒り狂い絶叫した! |
|
次はメス達のターンか。 | |
メス! 動き回りながら戦うぞ! |
|
メスを肩車していた60Gが∞行動で動き回る。 |
|
∞操作! ∞操作! ∞操作! ∞操作! ∞操作! |
|
メスは∞操作を使い複数のグノーシャで男銃鹿に攻撃した。 何万人の人間を操り男銃鹿に攻撃した。 |
|
理論上、俺に回避できない攻撃は存在しない。 | |
男銃鹿はニューヨークから南極に移動してメス達の攻撃を回避した。 |
|
罠を仕掛けて止めるの! | |
どんな罠をしかけても俺には効かない。 | |
俺を罠にはめたいなら、俺よりも速い罠を仕掛ける必要がある。 男銃鹿は南極から北極まで走り抜けた。 |
|
くそぉー! くそぉーなのー! |
|
メスは何度も何度も攻撃を仕掛けた。 男銃鹿は全ての攻撃を回避した。 ・・・・・・ ・・・・ ・・ 4年前…… 話は4年前にさかのぼる。 「老人介護施設」 ここは、とある老人介護施設。 4年前に男銃鹿は女銃鹿と同じように介護の仕事を体験していた。 |
|
この老人に生きる価値はあるのか? | |
男銃鹿は老人ホームの個室で、即身仏(そくしんぶつ)のような老婆(ろうば)のオムツを交換していた。 老婆は寝たきり老人だった。 食事もトイレも入浴も自力では出来ない。 |
|
こら研修生! 利用者さんの前で何を言ってるのよ! |
|
男銃鹿の後ろにいた介護職員のオバちゃんが、男銃鹿の頭を拳骨(げんこつ)で叩いた。 |
|
地味に痛いですね。 | |
英語で言うとラブウィップ。 愛のムチよ。 |
|
介護職員のオバちゃんは男銃鹿に介護の仕事を説明していた。 |
|
もう一度聞きます。 | |
この老人に生きる価値はありますか? |
|
生きる価値はあるわね。 | |
戦後、一生懸命復興のために働いてきたお婆ちゃんよ。 死ぬまで支えてあげないとバチがあたるわ。 |
|
死ぬまで支える? | |
老人が死ぬまでに多くの労力と金がかかりますよね。 |
|
・・・・・・。 | |
何もできない老人にこれほどの労力と金を費やしていいのですか? | |
老人を生かす労力を捨て… 生産的な仕事をしたほうが社会にとってプラスになると思いませんか? |
|
思わないわね。 | |
なぜですか? | |
老人を平気で捨てるような冷たい人間だらけになったら、社会にとってマイナスよ。 | |
冷たい人間だらけの社会がプラスになるわけないでしょ。 |
|
老人を捨てる冷たい人間だらけになったら、社会にとってマイナス? | |
なるほど… そういう考えですか… 介護職員の言葉は男銃鹿の心に響かなかった。 何もできない寝たきり老人の姿だけが男銃鹿の心に焼き付いた。 ・・・・・・ ・・・・ ・・ 男銃鹿が介護職員のオバちゃんに質問してから… 1年後。 男銃鹿はとある病院で研修医を体験していた。 「とある病院」 男銃鹿は病室で生命維持装置を付けた85歳の老人を見下ろしている。 老人は死人のようにピクリとも動かなかった。 |
|
この老人は生命維持装置がないと生きていけない。 | |
それどころかもう何もできない。 この老人に生きる価値はあるのか? |
|
ご家族が延命を希望してるからね。 当然、延命するよ。 |
|
40歳の気さくな医者が男銃鹿の問いに答えた。 |
|
こんな延命は労力の無駄です。 | |
死にそうな老人を生かす医療を捨て、未来がある若者を生かす医療を優先すべきだ。 |
|
あー君みたいに自分の死生観を人に押し付けちゃう、先生っているねー。 | |
患者やご家族に自分の死生観を押し付けちゃう、酷い先生もいるねー。 |
|
死生観の押し付けは駄目ですか? | |
医者はね… | |
サービス業だよ。 患者さんや、患者さんの家族が延命を望むなら全力で生かす。 それが医者のお仕事。 |
|
死生観の押し付けはだーめー♪ | |
男銃鹿の質問に答えた医師はおどけながら、男銃鹿をデコピンした。 |
|
ではそんな先生にあえて質問します。 | |
この老人に生きる価値はありますか? |
|
もちろんあるとも。 | |
理由を教えてください。 | |
この老人の延命を望む家族が、この老人の命に価値を感じている。 | |
命に価値を感じている人間が一人でもいるなら、それは生きる価値がある人間だよ。 |
|
命に価値を感じている人間が一人でもいるなら、生きる価値がある… | |
なるほど… そういう考えですか… 医師の言葉は男銃鹿の心に響かなかった。 生命維持装置が無ければ生きられない、老人の姿だけが男銃鹿の心に焼き付いた。 ・・・・・・ ・・・・ ・・ そして・・・ 現在。 メスと交戦中の男銃鹿は茨城県に移動していた。 |
|
・・・・・・。 | |
時刻は深夜10:30 茨城県牛久(うしく)市。 男銃鹿は牛久大仏(うしくだいぶつ)の頭頂部にいた。 「牛久大仏(うしくだいぶつ)」 牛久大仏(うしくだいぶつ)は全長120mのブロンズ立像である。 |
|
俺はこの4年間で何万人の老人を見てきた。 | |
老人の命に価値があるか見定めてきた。 |
|
そして答えを出した! | |
労働力が無い老人の命に価値はない! |
|
老人の維持費を若者が支払っても、何一つメリットがない。 | |
力が無い老人から生まれるモノは何もないのだ。 ・・・・ ・・ |
|
しかし! 残念なことに! |
|
この国は老人を維持するため… |
|
若者に凶悪な負担を要求している! | |
若者は老人を維持するために、多くの税金を支払う事になるだろう。 少子・高齢化で労働人口がアンバランスになれば、労働人口のアンバランスを解消するために多くの移民を受け入れるしかない。 |
|
いや移民は… とっくの昔に受け入れているか… |
|
さらに多くの移民を受け入れればトラブルが絶対に発生する。 移民とのトラブルは若者の負担になるだろう。 |
|
とどのつまり! | |
この国は老人を幸せにするために、若者を犠牲にする方向に突き進んでいる! |
|
本当にそれでいいのか! | |
これからこの国で生きる若者に、凶悪なマイナスを押し付けていいのか! |
|
俺は嫌だね。 | |
だったらもう、老人を虐殺して! 若者の負担を減らすしかないだろうが! 男銃鹿は怒りに震えながら、∞視点でこの国に住む全ての老人を睨(にら)みつけた。 |
|
救う。 | |
俺がこの国に住む若者を救う。 弾丸のように真っ直ぐすぎる男銃鹿の視線が、この国に向けられる。 真っ直ぐすぎる視線は処刑をする女銃鹿の目にも似ていた。 ・・・・・・ ・・・・ ・・・ |
|
男銃鹿を茨木で発見っ! 牛久大仏さんの上なの! |
|
東京の広場にいたメスが気配で男銃鹿の位置を特定した。 「東京の広場(ビルの入り口前の広場)」 |
|
許さないよ! 許さないよ! 許さないよ! 許さないよ! 許さないよ! 許さないよ! |
|
ブチ殺すだけじゃ許さないよ! |
|
こんなに怒ったメスをはじめて見ました。 | |
虐殺を目撃したメスは怒り狂っていた。 虐殺を目撃した女銃鹿はどこか弱々しい。 過去の失敗と男銃鹿の強大な力が、女銃鹿を委縮(いしゅく)させていた。 |
|
救 う ! |
|
許さないの! | |
メスも男銃鹿も義憤(ぎふん)でふるえていた。 時刻は夜の10:30。 男銃鹿が巻き起こした戦いは終盤戦に突入していた。 |
|
次の話へ 前回の話へ TOPに戻る |