第52話 | |
メス「お姉ちゃんが自殺しないと誓うならいつでも中止できるからね」 |
お姉ちゃん! お姉ちゃんを殺したら… |
許さないよ! |
深夜4時。 田んぼの真ん中。 「田んぼ」 |
|
メス。 | |
女銃鹿(めじゅうか)は田んぼの真ん中で切腹をしていた。 女銃鹿の腹は手術で開いたようにパックリと開いている。 「パックリと開いている」 |
|
本当に許さないよ! | |
超爆噴火怒怒んぱっちなの! |
|
自殺はしません。 安心して下さい。 ……と言ったはずだろ! |
|
三号君。 | |
!? | |
お姉ちゃんのお腹がパックリと開いているの! 「女銃鹿のお腹がパックリと開いている」 |
|
でも出血は少ない。 傷は深くないね。 |
|
切腹したけどお腹の大動脈までは傷ついてないと思うの。 この状態なら半日は余裕で生きられる。 |
|
メス! 三号君! 聞いてください! |
|
私はお父さんを殺した重罪人です! 死罰を受けるべき悪人です! 「お父さん」 |
|
だから…… | |
死んじゃ駄目だよ。 | |
お姉ちゃんが殺人犯でも生きてて欲しいの。 |
|
私はお父さんを殺した罪で死刑になるべきです! | |
死刑……死刑ね。 | |
死刑がお姉ちゃんを縛りつけてるの。 |
|
それは…… 反論できません…… |
|
女銃鹿は言葉をつまらせた。 |
|
そうだ! 良い機会だから死刑の話をしようよ。 |
|
死刑の話? | |
私が死刑をどう考えてるか告白するよ。 | |
「私的死刑論」 |
|
メスの考え? | |
(少し興味がある) | |
もしお姉ちゃんが極悪人に酷い感じで殺されたら… | |
私は酷い事をした極悪人の死刑を望むよ。 全力で死刑賛成だね! 「お姉ちゃんの為に全力で死刑賛成!」 |
|
だったら…… 私とおなじ…… |
|
もしお姉ちゃんが悪いことをして死刑判決を受けたら! | |
全力で死刑反対だね! お姉ちゃんの命を守る為に全力で戦うの! 「お姉ちゃんの為に全力で死刑反対!」 |
|
それは身勝手です! |
|
身勝手じゃないよ! 大事なお姉ちゃんの命は特別なの! |
|
大事な人を殺した人は許せないし、大事な人が何者であれ生きてて欲しいの! |
|
私はお姉ちゃんと…… | |
幸せになりたいだけなの。 |
|
私とは考え方が違う! |
|
ぴっ!? | |
女銃鹿の言葉には殺気が込められていた。 メスは女銃鹿の殺気に怯えた。 |
|
私は今まで8人の悪人を処刑した! | |
悪人だから処刑した! 犯罪被害者の遺族が望んだから処刑した! 「犯罪被害者の遺族?」 |
|
私だけが例外になるつまりはない! | |
私が悪人なら私を処刑する! |
|
まってなの! 冷静になるの! |
|
私は冷静です! | |
女銃鹿は切腹に使用した短刀を、自分の首に向けた! 「切腹に使用した短刀」 |
|
いきなり!? | |
悪人は処刑! 私が悪人なら私を処刑! |
|
私はこうするしかないんです! 女銃鹿を短刀で首を切ろうとした! |
|
まて! 早まるな! |
|
死んじゃ嫌だよ! | |
メスは居合い切りの構えから、素早くメスコンを抜く! 「メスコン=メスが愛用している特殊な刀」 |
|
∞ 操 作 ! |
|
∞操作は女銃鹿の肉体を掌握! 女銃鹿の肉体は、メスのコントロール下に置かれた。 |
|
体が動かない? 体の感覚が消えた? |
|
短刀はポイだよ! | |
か…… 体が勝手に…… |
|
肉体を支配された女銃鹿は短刀を前方に投げ捨てる。 |
|
∞斬戮! | |
|
|
短刀がフライパンに乗せられた水滴みたいに蒸発した!? | |
切りつけた時に発生する摩擦熱で短刀が蒸発して消えたのか? |
|
(∞操作と∞斬戮の組み合わせがメスの基本戦術) | |
体が動かない! 首から下の感覚がない! |
|
女銃鹿は地面に座った体制から動けない。 メスの∞操作が女銃鹿の動きを完全に封じていた。 |
|
∞操作で肉体は支配したよ。 | |
∞操作を解除してほしいなら自殺をやめるの。 |
|
嫌です! |
|
あの優しいお父さん殺した私が生きてていいわけがない! 父親殺しの罪で死刑です! |
|
お姉ちゃん聞いてなの。 | |
私が死刑にならないとアンフェアだ! | |
私は今まで8人の悪人を処刑した! 悪人だから処刑した! |
|
父親殺しの悪人になった私が、ノウノウと生きていいわけがない! | |
興奮した女銃鹿が似たような発言を繰り返した。 |
|
死ぬなよ! 死なないと約束しただろ! |
|
嘘は詫びます! しかし私の考えは変わりません! |
|
だから…… |
|
メスの気持ちを考えろよ! |
|
もう一度言います! | |
女銃鹿と三号は火がついたように言い争いをはじめた。 |
|
マジ喧嘩がはじまっちゃったの…… | |
メスは女銃鹿と三号の言い争いを呆然と眺めていた。 |
|
∞操作で何千万人の肉体を操作できるけど…… | |
人の心までは操作出来ないの。 お姉ちゃんの思いは変えられないの。 |
|
ここまで最低の石頭女とは思わなかったぜ! |
|
話をきけぇ! | |
女銃鹿と三号は言い争いを続けていた。 2人とも感情が高ぶりすぎて声色が変異している。 |
|
(こういう場面が人の世の地獄。私の∞地獄よりも地獄) | |
お姉ちゃんと三号君の喧嘩…… | |
家族の喧嘩はどんな時でもこたえるね。 喧嘩は嫌だよ…… |
|
お姉ちゃんと当たり前の事がしたいの…… | |
新しいゲームが発売されたら一緒に並んで買いに行こうよ。 夏には一緒にスイカを食べて…… 秋には一緒にサンマを食べて…… 冬はコタツでゲームをやろうよ…… |
|
この世界は単純で簡単だよ。 | |
ただ生きて…… |
|
一 緒 に い よ う よ ! |
|
三号君はお父さんの命をなんとも思ってないんですか! | |
見ず知らずの人間の命より女銃鹿の命が大事だろーが! | |
女銃鹿と三号は言い争いを続けていた。 |
|
手段が欲しいの! 手段が欲しいの! |
|
お姉ちゃんの強い思いをネジ曲げる手段が欲しい! 「お姉ちゃんの強い思いをねじ曲げる手段」 |
|
お姉ちゃんの強い思いをネジ曲げる手段! | |
メスは悩んだ! メスは苦悩した! メスは手段を模索した! 激しく模索した! |
|
!? | |
手段は無いこともないね。 失敗したら私もお姉ちゃんも死ぬけど…… |
|
いや! | |
悩む必要はないよ! この可能性にかけて見るの! |
|
(メスの表情が変わった?) | |
メスはスタスタと女銃鹿の眼前まで移動し…… 座った状態で動けない女銃鹿を見下ろした。 |
|
? | |
? | |
私に自殺しないって言ったけど…… | |
自殺しようとしたね。 |
|
そ……それは…… 説明しました。 |
|
私はお姉ちゃんの嘘を責めてる訳じゃないよ。 |
|
え? | |
私の約束を破ってでも…… | |
お姉ちゃんは自分を死刑にしたかった。 お姉ちゃんはお姉ちゃんが許せなかった。 |
|
そうだよね? | |
はい。 | |
つまり…… | |
「約束」の価値が軽かった。それだけだよ。 「メスとの約束より死刑が重かった」 |
|
「約束」は駄目だね。別のモノを使うよ。 |
|
??? | |
はい。 | |
メスはふところから拳銃を取り出し、女銃鹿のヒザの上に拳銃を置いた。 |
|
え? | |
え? | |
今の女銃鹿に拳銃を渡したら駄目だろ! |
|
大丈夫だよ。 | |
∞操作でお姉ちゃんの肉体は完全に支配してるの。 |
|
何を考えてるのですか? | |
お姉ちゃんは…… | |
「死刑」と「私の約束」の2択で…… 死刑を選んだの。 「死刑VS私の約束」 私の約束を捨ててお姉ちゃんを死刑にしようとしたの。 |
|
はい | |
だったら…… | |
「死刑」と「私の命」の2択だったらどっちを選ぶかな? 「死刑VS私の命」 |
|
死刑とメスの命? | |
どういう意味ですか!? |
|
とりあえず拳銃を握って。 | |
そんな…… 体が勝手に…… |
|
女銃鹿は∞操作でメスのコントロール下に置かれている。 女銃鹿は座った状態で拳銃を右手で握った。 |
|
スイングバイ加速射撃を撃つよー。 |
|
スイングバイ加速射撃!? | |
何を考えて…… | |
攻撃目標は…… | |
・・・・ ・・ お姉ちゃんと私だね。 |
|
!? | |
!? | |
三号君と蜻蛉斬りさんは待避してほしいの。 |
|
意味が分かりません! | |
どういうつもりだよメス! | |
お姉ちゃんの希望どおり…… | |
お姉ちゃんの死刑を続行するよ。 スイングバイ加速射撃でお姉ちゃんをぶち殺すの。 |
|
意図が見えません! | |
やってみれば分かるよ。 | |
メスは…… 座った状態で動けない女銃鹿の頭を抱きしめた。 |
|
お姉ちゃん。 一緒だよ。 |
|
ずっと! |
|
この状態でスイングバイ加速射撃を私に撃てば…… | |
メスも巻きぞえで死にます! |
|
巻きぞえで死ぬね。 | |
どうして!? | |
知りたいの。 | |
お姉ちゃんにとって…… 死刑と私の命はどっちが大事かな? |
|
比べられません! | |
お姉ちゃんが自殺しないと誓うならいつでも中止できるからね。 |
|
なにを…… なにを言って…… |
|
三号君。 | |
なんだよ。 | |
もしお姉ちゃんと私が死んだら…… | |
60Gちゃんの所に行って欲しいの。 「60Gちゃん」 |
|
二人が死ぬ? なにをいってるんだ? |
|
私もお姉ちゃんも三号君をうまく導けなかったけど…… | |
60Gちゃんなら三号君を導けると思うよ。 |
|
男の人は男の人に任せたほうがいいかもー。 | |
だから何を…… | |
・・・・ ・・ |
|
はじめるよ。 | |
離れて・・・ |
|
やめて下さい! | |
女銃鹿は首を激しく左右に振って拒絶した。 |
|
どっちに転んでも、これが最後のスイングバイ加速射撃になる気がするの。 |
|
お願いです! やめてください! |
|
女銃鹿は首を振って拒絶した! 激しく首を振りすぎて首の筋肉が悲鳴を上げる。 ・・・・ ・・ |
|
行くよ! |
|
やめろぉぉぉ! | |
女銃鹿は拳銃を握った右腕を…… 真っ直ぐ天に向けた。 |
|
体の言うことが…… 完全に…… |
|
メスは女銃鹿の肉体を完全に支配した。 女銃鹿の口先も全て支配した。 |
|
スイングバイ! | |
スイングバイ! | |
銃に装填された1発の弾丸が閃光手榴弾のように光り輝く! 光は周囲を白く塗りつぶした! |
|
(スイングバイ……) | |
加 速 ! |
|
射 撃 ! |
|
女銃鹿は拳銃の引金を引いた! 銃内部のハンマーが雷管を叩く! 弾丸は…… 撃 発 し た ! |
|
!! | |
拳銃が粉々に砕け… 光を発する弾丸が天空に舞い上がる! |
|
させるかよぉ! | |
三号は光を発する弾丸を両手でつかみ止めようとした。 |
|
!? | |
……が止められない! 三号に弾丸から発生した衝撃波が襲い掛かる! 三号は突風に飛ばされた落ち葉のように、きりもみしながら10m後方に吹き飛ばされた。 |
|
(素手で止めるのは私でも無理) | |
・・・・・。 | |
光の弾丸はそのまま天空に舞い上がる! 大気圏を越え月に向かって直進する! |
|
スイングバイ加速射撃って近くで見ると綺麗だねー。 | |
メス! 離れて下さい! |
|
このままでは巻き添えを喰らってメスも死にます! |
|
ニッ♪ | |
お願いです! 離れて下さい! |
|
私はまた大事な人を失う事になる! |
|
・・・・・・。 | |
・・・・・・。 | |
弾丸は月に向かって 直進した! 爆進した! |
|
次の話へ 前回の話へ TOPに戻る |