第31話 | |
跳弾ちゃん「力の強い私が国になり代わってあなたを処刑する。 私は息を吐き飯を喰らうギロチン台であればいい」 |
やめろおおお! | |
これを殺せば島民は残り2人。 皆殺しまであと少し。 |
【雑木林の中】 ここは島の東部にある雑木林の中。 痩男(やせおとこ)の撃った凶弾が、勇気に襲いかかった。 銃弾は障害物の木々を貫きながら爆進する。 |
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銃だん!? | |
勇気は装備していたライフルを素早く構えた。 |
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ほう…… | |
勇気! |
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この…… | |
そして襲いかかる銃弾をライフルで…… ・・・・・・ ・・・・ ・・ |
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ぐちゃ! |
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フツーの人間が、発射された銃弾に対応できるわけがない。 ライフルを構えた勇気の眉間に、30カービン弾が突き刺さった! |
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!? | |
っ………あぁあぁ! | |
銃弾が勇気の脳に埋め込まれる。 撃たれた衝撃で勇気は吹き飛ばされた。 そして後頭部を木にぶつけ…膝から崩れるように座り込んだ。 |
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あ……あ…… |
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戦いらしきものすら起きなかった。 敵との会話すらなかった。 そもそも敵の姿すら見ていない。 生き詰まる攻防戦は夢のまた夢。 ただ一方的に勇気は銃殺された。 |
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【勇気の心の中】 ここは銃を撃たれた勇気の心の世界。 なにもない真っ黒な世界。 |
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敵の姿も見ないで主人公が秒殺ですか? 主人公の秒殺記録でギネス認定をしますか? |
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「勇気の冷静な心」が勇気に話しかけた。
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わたしは撃たれたんじゃ!? | |
犯人に撃たれてあっさり死にましたよ。 キンチョールジェットで殺されるハエだって、もう少し善戦するのでは? |
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そ……そんな!? | |
そんな! そんな! そんな! 酷すぎる!! |
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まだ私は何もしていない! 何も救えない! 何も倒せていない! |
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これが犯罪被害者の姿です。 | |
一方的に大事なものをつぶされ…… 一方的に人生をつぶされる。 |
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犯罪被害者とはそういうものです。 学んでください。 |
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くっ!? | |
・・・・・。 |
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死んでしまった以上…… 学ぶ意味がありません。 |
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・・・・ ・・ いえ。 学ぶ意味はあります。 |
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私があなたを引き継ぎます。 | |
引き継ぐ? | |
私はあなたではありません。 しかしあなたの魂に刻み込まれた情報は…… |
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私の中に生き続けるでしょう。 |
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なにを言ってるんですか? | |
あなたは私の冷静な心にすぎません! 私が死ねばあなたも死にます! |
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それは違います。 私はあなたの脳に埋め込まれた…… |
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30カービン弾です。 |
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はぁ? | |
素晴らしい偶然です。 あなたに命中した銃弾がたまたま私でよかった。 |
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今の私はあなたの脳内にいる。 |
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あなたは少し前にも私の心に登場しましたよね? | |
登場しましたよ。 心が通じ合ったのでしょうか? 遠くに離れていても、直接心に語りかける事が出来た。 |
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あなたの肉体は銃のグノーシャと相性がいいのでは? |
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グノーシャ??? | |
順を負って説明したいのですが……あなたに残された時間は長くありません。 | |
「勇気の姿」が徐々に透明になっていく… 勇気は透明になっていく自身の手のひら見つめた。 |
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・・・・・。 | |
私は透明になって消えるのですか? |
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ええ…… 死んだ妹さんと同じ場所に行くと思います。 |
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私の人生はなんだったんですか? | |
大事な妹が殺され… 私も犯人に殺され… |
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あなたの人生の結末は悲惨そのものでした。 | |
・・・・・。 | |
結末は悲惨でしたが…… |
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あなたがこれまでに経験した幸せな思い出があなたの全てです。 |
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・・・・・。 | |
生きていて楽しい娯楽に触れることができた。 生きていて美味しいものが食べられた。 生きていて人と楽しく語り合えた。 |
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それでいいじゃないですか? | |
それでいいのかもしれませんね。 | |
勇気の体がさらに透明になる。 勇気の頭上でまばゆい光が降り注ぐ。 |
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あちらで妹さんと幸せにくらして下さい。 | |
あなたはこれからどうするんですか? | |
私はあなたの肉体を使って犯人を倒します。 | |
・・・・ ・・ |
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・・・・・。 | |
どうかしましたか? | |
御武運を。 | |
そしてあなたもまた幸せでありますように。 |
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!? | |
勇気の頭上に降り注ぐまばゆい光が周囲を優しくつつみこむ。 光は世界を白く塗りつぶし…勇気は光の中に消えた。 |
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【雑木林の中】 島の東部にある雑木林の中。 島乃守(しまのまもり)が痩男を糾弾していた。 |
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なぜ勇気を殺した? あんたは何さまのつもりだ!! |
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あんたは絶対に地獄に落ちる! お天道様があんたを許さない! |
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地獄に落ちるのが私の望みです。 | |
地獄に落ちて地獄の責め苦を味わう。 それも私の舞台です。 |
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あんたはなんなんだ…… どこまで最悪なら気がすむんだ。 |
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私は最悪の存在を演じている。 | |
貴様に人の心はないのか? | |
・・・・・・ ・・・・ ・・ がさっ。 |
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(茂みがゆれる音?) | |
・・・・・。 | |
信じられない光景が痩男の目に飛び込んだ。 150m先で眉間を撃たれて死んだ勇気が、ゆっくりと立ち上がったのだ! 勇気の眉間についた銃痕がゆっくりと修復され…… 消えた。
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!? | |
!? | |
これが人の体。 私は弾丸のグノーシャ。 |
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頭部に突き刺さった銃弾が具脳になりグノーシャになった? | |
あまりにも早すぎる。 こんなにも早くグノーシャになるなんて、信じられない。 なんだあれは? |
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勇気!! こんどこそ逃げ・・・ |
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∞機動。 | |
弾丸のグノーシャが∞機動とつぶやいた瞬間…… 弾丸のグノーシャが秒速30万キロメートルのスピードで、痩男に肉体を支配された島乃守に接近した。 |
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!? | |
そして島乃守のわき腹に拳を叩き込んだ! 島乃守の胴体がクの字に曲がる! |
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がはっ…… | |
・・・・・・。 | |
島乃守は両手でお腹をおさえ……前のめりに倒れた。 |
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強いという事実は重要ですよね。 弱ければ悪人1人倒すこともできない。 |
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悪人1人処刑することも叶わない |
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がはっ……がはっ…… | |
・・・・・。 | |
処刑を実施できる国も、リヴァイアサンという化け物に例えられるぐらい強大で凶悪です。 | |
強大で凶悪な力を持つ国だから、人を処刑できる。 |
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あなたは何者ですか? | |
生まれたばかりのグノーシャ。 名前は……とりあえず「跳弾ちゃん」と名乗りましょうか。 |
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勇気? それなんていうラノべ? |
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何が目的ですか? | |
力の強い私が…… 力の強い悪人を処刑する。 |
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痩男(やせおとこ)あなたを処刑します。 |
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生まれて最初にやることが処刑? こういうグノーシャもいるんですね。 |
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悪はただちに死ね。 | |
跳弾ちゃんは膝を曲げる。 そして音速と同じスピードで、天空に向かって跳躍した。 その跳躍は飛び跳ねる鹿のように軽やかで静かだった。 |
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!? | |
跳躍した跳弾ちゃんの高度が上昇する。 高度500m 高度1000m 高度1500m 高度2000m! |
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勇気が消えた? | |
跳躍した跳弾ちゃんの目の前に壁のような雲が発生した。 雲の正体は音速の壁。 音速の壁とは物体が音速を超えたときにあらわれる、空気の壁。 「音速の壁」 ※ナショナルジオグラフィックの画像 |
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裁きます。 | |
上昇する跳弾ちゃんは体勢を反転させる。 そして音速の壁を両足で蹴った。 |
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サウンドバリア 跳弾! |
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音速の壁を蹴った跳弾ちゃんは地面に向かって急降下した。 |
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敵の位置がわからない。 突然目の前から消えた…… |
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痩男が周囲を見回すが、跳弾ちゃんの位置が捕捉できない。 そんな痩男に向かって跳弾ちゃんは急降下した。 |
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ギロチンの刃に潰されて死ね。 |
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ぐっ……どこだ? | |
急降下した跳弾ちゃんのヒザが、島乃守の頭部にめり込んだ。 |
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げはぁっ! |
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げはぁっ! |
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攻撃から発生するソニックブームが周囲の木々を蹴散らし…… 攻撃の衝撃で島乃守の足元に直径5mのクレーターが生まれた。 |
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あなたはなにものですか? | |
私は何者であるか? そんなことは重要ではありません。 |
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力の強い私が国になり代わって、あなたを処刑する。 私は息を吐き飯を喰らうギロチン台であればいい。 |
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ふっ…… | |
負傷し地面に倒れ込んでいた痩男が鼻で笑った。 |
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国になり代わってですか? 随分と大きくでましたね。 |
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なにがおかしい? 外道中の外道! |
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いまのでどの程度のグノーシャか把握しました。 | |
!? | |
身の程をしれ! 小娘! 国になり代わる? あなたは国の恐ろしさが何も分かっていない。 |
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あなたに国の恐ろしさを教えてさしあげましょう。 | |
どういうことだ? | |
私の能力は∞演技。 知っているものなら何でも演じられる。 |
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それが国でもね。 |
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随分と大きくでましたね。 | |
あなたのように凡庸なグノーシャに殺されるつまりはありません。 私が狂った国となり、狂った暴力であなたを処刑しましょう。 |
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傲慢な! | |
鎖から解き放たれた狂った国を見たあなたは、何を思うのだろう。 | |
痩男に肉体を支配された島乃守が軽く息を吸った。 その瞬間・・・ 雑木林のざわめきが消え、周囲は沈黙につつまれる。 |
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ごく・・・。 | |
凡庸なグノーシャでは永久にたどりつけない力をお見せしましょう。 化け物の中の…… 化け物の力をお見せしましょう。 |
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∞ 演 技 |
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うわ……あっ…… | |
!? | |
島乃守の体が風船のように膨(ふく)らんだ。 衣服が引き裂かれ…… 凄まじいスピードで巨大化する。 |
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ああああああああああああああああああ! | |
島乃守の体は肌色の丸い球体になる。 球体は膨張する! 肌色の丸い球体は、直径40mになるまで膨張した! |
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国ノ塊(くにのかたまり)私が考える最も強い化け物です。 | |
直径40mの球体は宙に浮かび…… 雑木林を見下ろした。 |
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こんなものが国であるわけがない! | |
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