第29話 | |
ならば死刑です。 |
蜻蛉斬り(とんぼきり)を島の中心に足止めするのは限界がある。 | |
早めに島民を皆殺しにするか…… |
蜻蛉斬り(とんぼきり)は、島の中心で再びニセモノの蜻蛉斬りに遭遇した。 【島の公民館】 同時刻。 公民館の入り口で1人の島民が見張りをしていた。 島民は日に焼けた40代の漁師。 ちょび髭が似合う島のムードメーカーだ。 |
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今のところは異常なしか…… 公民館で避難してるチビ共は俺が守っちゃるぜ。 |
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40代の漁師は狩猟用ライフルを握りしめながら決意した。 |
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善知鳥(うとう)を15匹狩りました。 |
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!? | |
公民館の中から50代の中年男性が現れた。 男はハゲ頭で中肉中背。 40代の漁師がよく知っている人物だった。 現れた男性は「島乃守(しまのまもり)」島の代表を務めていた。 |
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島乃さん! いつ公民館の中に入ったんですか? 全然気がつきませんでしたよ。 |
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16匹目。 | |
彼は島乃守ではなかった。 痩男が変身した島乃守のニセモノだった。 |
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島乃さん……ですよな? 公民館で避難している子供たちには会いましたか? |
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子供たちは全員殺しました。 |
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はっ!? |
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「∞演技」です。 | |
私の「∞演技」を見た子供達は、感動しすぎてショックを受けた。 強烈なショックは血液の循環を急激に変化させ…… 心臓を圧迫する。 |
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なにをいってるんだ! 意味が分からない! |
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そして心臓ショックで死亡した。 |
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∞演技とは変身するだけの能力ではない。 変身し演技し…… 人を死ぬほど感動させる。 |
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だから! 意味が! |
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漁師がニセモノの島乃守に詰め寄ろうとした瞬間…… 上空から黒い弾丸が落ちてきた。 40代の漁師に、黒い弾丸が突き刺さる! 40代の漁師は小枝のようにパタリと倒れ、絶命した。 |
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島のあらゆる場所に配置された私がスペースデブリ跳弾(ちょうだん)で島民を狙い殺す。 |
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・・・・・・・。 | |
痩男は死んだ漁師を静かに見つめつぶやいた。 |
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昔……ある舞台芸人が「安易に人が死ぬ舞台は低俗」だと小馬鹿にしました。 | |
だがそれは間違いです。 安易な死はこの世界には存在しない。 くだらない死に見えたとしても…… 死んだ本人から見れば大きな出来事なのだ。 |
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死はいつだって強烈で… 人の心を揺さぶり続ける。 |
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痩男は死んだ漁師が持っていたライフルを拾いあげ。 公民館の外に出た。 |
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全員射撃準備。 | |
痩男がライフルを構えライフルの銃口を天に向けた。 ライフルの銃口を天に向けたのは彼だけではない。 痩男は自分の分身を島のあらゆる場所に待機させていた。 その数100人。 姿形は島民の姿を模していた。 島中で待機していた痩男の分身達が、ライフルを構え銃口を天に向けた。 |
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全て殺せ。 | |
スペースデブリ跳弾300連発! 島のあらゆる場所に待機していた100人の痩男が一斉にライフルを連射した。 放たれた弾丸の数は合計300発。 弾丸はスペースデブリに衝突し… 島民に向かって真っすぐ落下した。 |
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私は殺生の罪で地獄に堕ちるでしょう。 そして地獄の底でも演技する。 |
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黒い弾丸の雨は室内で待機していた島民に襲いかかった。 弾丸は天井を突き破り、島民の頭部に…… 突き刺さる! 突き刺さる! |
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グチョッ! | |
グチョッ! | |
グチョッ! | |
グチョッ! | |
グチョッ! | |
グチョッ! | |
グチョッ! | |
島に残っていた島民は214人いた 1回まばたきをする間に、100人の島民が死んだ。 2回まばたきをする間に、200人の島民が死んだ。 |
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グチョッ! | |
グチョッ! | |
グチョッ! | |
死んだ。 |
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【雑木林の入り口】 勇気とオタは雑木林の入り口にいた。 勇気達はGPSの位置検索で父親のいる場所に向かって徒歩で移動していた。 |
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お父さんはすぐ近くの筈です。 | |
勇気は狩猟用ライフルを握りしめながら答えた。 |
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あの……勇気… やっぱり話しておきたいことが… |
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危ない! | |
スペースデブリ跳弾を察知したオタが、傷ついた右肩で勇気の背中をタックルした。 |
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え…? | |
勇気は2mほど前に突き飛ばされる。 そして木に正面衝突した。 勇気は鼻さきを木にぶつけ鼻血を流した。 |
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ぶっ! なにをするんですかオタ君! |
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グチョ! | |
スペースデブリ跳弾がオタの背中を貫いた。 オタの背中からおびただしい量の血があふれ、血は衣服を赤く染めた! |
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オタ君! |
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ははっ…… |
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オタはがっくりと膝をつき。 前のめりにうずくまった。 |
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オタ君!? 私を助けてくれたんですか? |
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そ……そうなるのか…な? 背中がすごく熱いや…… 痛みはそこまで酷くないよ…… |
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オタの体から血が湧水のようにあふれだす。 |
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そ…そんな…… 何故私なんかをかばったんですか? |
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「私なんか」なんて言っちゃ駄目だよ。 | |
すぐに治療を! |
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いいよ……それより聞いて…… 俺さ……本当は犯人に家族を殺されてないんだよね。 |
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え? | |
勇気を守りたいからついてきただけなんだ。 |
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あ…あの…あの…… | |
よく分からない犯罪者に殺されるのはとっても腹立たしいね…… | |
勇気が犯罪者に殺されるなんて、考えたくないよ…… |
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あ…… | |
良い言葉で勇気を説得したかったけど思いつかないや…… 俺はベターなセリフだけ残して死ぬのかな…… |
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勇気… 犯人と戦っちゃ駄目だ… 犯人に殺されちゃうよ… |
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でも! 許せない……許せない! |
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勇気は傷ついてほしく…ない。 犯人も許せないよね… |
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オタの意識がぼやける。 これ以上は口が動かない。 |
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(ほんと何もできなかったな……このまま死ぬのかな?) | |
勇気は涙目になりオタの両手をギュッと握った。 |
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(この位置だと勇気のオッパイが近いや…この場所で死ぬなら…それで…) |
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オタは心の中でそうつぶやき… 出血多量のショックで死亡した。 |
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オタ君! オタ君! |
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勇気がオタの体を揺すった。 オタの体から生気が徐々に消えていくのを感じた。 |
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!!!???? | |
心の中でオタの言葉が何度も鳴り響く。 勇気は傷ついてほしく…ない。 犯人も許せないよね…… 勇気は傷ついてほしく…ない。 犯人も許せないよね…… 勇気は傷ついてほしく…ない。 犯人も許せないよね…… |
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オタ君…私にどうしろと…… いうんですか…私に… |
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勇気は悲しみと苦悩で顔を歪ませた。 勇気はオタの手を全力で握りしめて苦悩した。 自問自答。 自問自答。 自問自答。 |
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簡単な答えがあります。 | |
「勇気の冷静な心」が勇気に語りかけた。 「勇気の冷静な心」 |
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簡単な答え? | |
オタ君は私に傷ついてほしくないといいました。 犯人も許せないといいました。 |
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はい。 | |
だったら当たり前の方法があります。 |
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当たり前の方法? | |
犯人を… 裁判所に突き出して… |
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死刑にする。 |
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!? | |
・・・・・。 | |
勇気は身震いした。 勇気の魂に「死刑」の二字が刻み込まれる。 |
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被害者の遺族が危険を冒して、犯人に報復する必要はない。 | |
被害者の遺族が手を汚す必要はない。 | |
国の力で犯人を死刑にします。 |
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