第17話 | |
女銃鹿「うっかりしていると全てを失います。」 |
おーい女銃鹿! 弁当買ってきたぞー。 |
|
はーい。 今降ります。 |
【使われなくなった公園の観覧車】 |
|
私の名は女銃鹿。 今、私は愛知県名古屋市にある 使われなくなった公園にいる。 公園の北部には観覧車が設置されており・・・ 私は観覧車の一番上にあるゴンドラの中から 「元死刑囚」を監視していた。 |
|
「カタキ討ちの犯人」が、日本で死刑が廃止された事に不満を感じた人間なら…… 元死刑囚を再び襲うはずです。 |
|
私はその現場を「∞視点」で目視して犯人を特定すればいい。 |
|
もう夜の8時だぞ。 そろそろ家に帰らないか? |
|
10時まで続けます。 | |
私はそういうと…… 一番上のゴンドラの扉を強引に蹴り開けてから、ゴンドラの外に飛び降りる。 私は背中から飛び降り…… 空中で猫のように回転。 猫のように優雅に着地した。 |
|
相変わらず身軽だな。 | |
三号君は着地した私に、コンビニのノリ弁当が入った袋を手渡した。 |
|
後は「鮭トバ」が好きなんだってな。 | |
は……はい。 妹から聞いたんですね。 |
|
そう言って鮭トバの入った袋を私に渡してくれた。 |
|
【鮭トバ】 |
|
私はさっそく鮭トバの入った袋を開き、鮭トバを口に放り込む。 鮭トバとは、簡単に言えば鮭の薫製だ。 北海道の物産展で購入したものがツボにはまって、好物になった。 |
|
どうだ? カタキ討ちの犯人は見つかったか? |
|
収穫は0ですね。 | |
私は袋に入った鮭トバを口に流し込み、リスのように頬袋をいっぱいにさせてモリモリと鮭トバを食した。 |
|
ぷっ。 | |
なんですか? | |
いや……リスみたいに食うところが少し面白かった。 | |
笑いのツボが大きいんですね。 | |
鮭トバは一瞬で完食した私は、ノリ弁を包んでいるラップをベリベリ剥がす。 |
|
いや、面白いというか…… 和んだ。 |
|
和む? | |
俺さ。 女銃鹿のことを攻撃的な真面目人間だと思ってた。 |
|
会った初日に三号君を暴力をふるいましたからね。 そう思うのも無理はないですよ。 |
|
私はノリ弁の中にはいっていたノリとゴハンを頬張りながら答えた。 |
|
この前、女銃鹿が下着でリビングに出たときも…… | |
ぶっ…… | |
私は口の中に詰め込まれたご飯を吐き出してしまった。 気管と食道の分岐部にはいっていた米粒が、吐き出した勢いで鼻腔を経由して鼻の穴から吹き出る。 |
|
忘れてくださいと… 言ったでは無いですか! |
|
鼻の穴からゴハン粒が半分だけヒョロっと飛び出しているが…… 私はその事実に気づかない。 |
|
(鼻の穴からゴハン粒が半分だけヒョロっと飛び出てる。) | |
聞いてますか? | |
はは……悪い。 初めて会った時が怖かったからギャップを感じたんだ。 |
|
三号君と出会った時期は、鈴木はじめを処刑した時期と重なっていましたから…… 気が立ってたかもしれません。 |
|
(鼻からゴハン粒が半分だけヒョロっと飛び出てる状態で、真面目に話されるとシュールだな) |
|
妹が言うには……死刑が関係したことになると、私は殺伐とした性格になるそうです。 |
|
・・・・・・。 | |
死刑という殺伐した世界と接し続ければ、人は攻撃的になるかもしれない…… それでも誰かがやらなければならない事だと私は考えます。 |
|
(鼻の穴から飛び出たゴハン粒が気になって、話に集中できない……) | |
どうしました? さっきからボーッとして。 |
|
なぁ……女銃鹿。 携帯のカメラで女銃鹿の写真を撮影していい? |
|
写真をですか? 何に使うんですか? |
|
妹ちゃんに、夜までがんばって活動する女銃鹿の写真を送ろうと思うんだ。 | |
妹に送るんですか? いいですよ。 |
|
(女銃鹿……無防備にもほどがあるぞ) | |
俺は・・・ 女銃鹿の鼻の穴からゴハン粒が半分だけヒョロっと飛び出てる映像を、携帯のデジカメで撮影した。 女銃鹿の真面目な顔から飛び出てるゴハン粒は、シュールであり奇跡の映像でもあった。 |
|
じゃあ……画像を携帯のメールに添付して妹ちゃんに送るから。 | |
真面目に活動している事が、妹に伝わると嬉しいですね。 | |
え……ああ…… うん。 |
|
俺は画像を携帯のメールに添付して、妹ちゃんに送った。 画像を見た妹ちゃんが爆笑する姿が目に浮かぶ。 |
|
どうしたんですか? 複雑な表情を浮かべて。 |
|
な……なんでもないですよ。 女銃鹿さん。 |
|
??? | |
俺は心の中で何度も女銃鹿に土下座した。 |
|
【国道一号線 東京都】 |
|
翌日の午前10時。 東京都……国道一号線を走行中の護送車の中。 |
|
犯人立ち会いの現場検証か・・・ | |
俺の名前は鬼頭剛(きとうつよし)。 警視庁刑事部捜査一課に所属している警察官だ。 同僚からは若(わか)ゴリラと呼ばれている。 女性を連続殺害したあげく、遺体からマウスパッドを作り出した被疑者の仇山的助。 その仇山的助を護送車に乗せて国道一号線を走行中だ。 |
|
・・・・・・。 | |
仇山的助関連の現場検証は何度目だ? | |
仇山的助は少なくとも28人もの女性を殺している。 殺害する度に殺害現場を変更しているので、現場検証が極めて困難だ。 これから25人目の殺害現場を犯人立ち会いのもと、現場検証することになっている。 |
|
不満ですか? 若ゴリラ。 |
|
俺が陰鬱そうな顔で護送車を運転していると、助手席に座っていた鑑識の羽山アキラが話かけてきた。 |
|
殺した数が多いうえに、犯人が嘘ばっかりつきやがるからな。 本気で疲れる事件だな。 |
|
再三忠告したにも関わらず嘘ばかり付きますからね。 嘘を付くのが習慣化されすぎてるんですかね? |
|
そのうえ・・・同僚の羽山アキラ君はフリーダムに動きまくって、被疑者と被害者を勝手に接見させちまうしなー。 俺はフリーダムガンダムだけはあんまり好きじゃないんだけどな。 |
|
被疑者と被害者が接見室でもめた事が、マスコミにばれなくて本当によかったですよ。 |
|
おまえさ……被害者の希望を叶える為なら、多少の法律は破ってもいいと考えてるだろ。 | |
法律は嫌いです。 本当は被害者がルールでいいと思うんですよ。 |
|
気持ちは分かるけどよ…… 俺たち警察官は単なる法の番人なんだよ。 法律は守ろうな。 |
|
俺は公務員ではなく刑事でありたいと考えています。 それに…… |
|
羽山アキラが次のセリフを言おうとしたその時…… ヒュン!! 突然、天井から風を斬る音がした。 |
|
!? なんだ!? |
|
若ゴリラ! 天井が! |
|
天井から急に冷気が入ってくる。 若ゴリラが天井を見上げると・・・ 護送車の天井が、綺麗に無くなっているのが見えた。 車には何かに切られたような後が残っている。 |
|
な・・・!? | |
若ゴリラがバックミラーを見ると、護送車の天井が宙を舞って、後方で一回転するのが見える。 その後、護送車の天井は ガコッ! ガッ! という音をあげながら道路の上を回転。 後方に走っていた軽トラに激突した。 |
|
最悪だ・・・。 | |
道路に何か走ってます! | |
羽山アキラがそう叫んだ。 若ゴリラがバックミラーを見ると、車の1m後方で奇妙な男が走っているのが見えた。 男の足は異常に早い。 時速50kmで走行中の護送車に簡単についてきている。 |
|
ぐっ・・・ 何者だ? |
|
男の身長は2mぐらい、体型はビルダー体型。 顔は髪やヒゲにおおわれていて判別できない。 男の左手には日本刀の鞘が右手には日本刀が握られている。 |
|
【車を追いかける奇妙な男】 | |
(なんだあれは? 女銃鹿の言っていた、∞機動が使える不思議人間か?) |
|
護送車を襲撃ってどこの馬鹿が・・・ | |
失礼。 | |
羽山アキラはそういうと助手席から、運転席の足下に右足を入れて・・・ ブレーキペダルを押した。 |
|
あ・・・何しやがる!! | |
強烈なブレーキ音が鳴り響く。 護送車がスリップしながら緊急停止した。 |
|
!! | |
後方を走っていた男は、突然のブレーキに対応できなかったのだろう。 護送車の背面に接触。 後方に吹き飛ばされた。 |
|
【観覧車】 |
|
カタキ討ちの犯人が動いた! | |
女銃鹿は観覧車の一番上に設置してあるゴンドラの中で、元死刑囚の仇山的助を「∞視点」で監視し続けていた。 そして犯人が護送車を襲撃する現場を「∞視点」で目視した。 |
|
根拠なき女の勘に感謝。 根拠はありませんが、犯人が次に襲うのは仇山的助のような気がしました。 |
|
犯人の位置は東京都の国道一号線だ。 犯人は仇山的助を乗せた車を襲撃している。 |
|
どうした女銃鹿? 犯人は見つかったか? |
|
見つかりました。 犯人は夜銃(やじゅう)です。 |
|
野獣ってビーストって意味の野獣? | |
夜の銃と書いて夜銃です。 弾丸のグノーシャ……夜銃。 |
|
そう言いながら女銃鹿は、膝元に置いていたバックの中からニューナンブm60という名の回転式拳銃を取り出した。 |
|
さっそく奇襲か? | |
犯人は東京の国道一号線で警察の護送車を襲撃中です。 この調子だと20秒以内に、仇山的助は夜銃に誘拐されるでしょうね。 |
|
今度は「名古屋ー東京」の範囲で戦うんだな。 | |
その程度の近距離戦で済めば幸運です。 もし反撃がきたら防御して下さい。 |
|
そう言いながら女銃鹿はゴンドラの 窓から手を出し…… 拳銃の引き金を引いた。 銃口からマズルフラッシュ(発射炎)が発生! 銃口から銃弾が吐き出される。 |
|
(あ、相変わらず……女銃鹿が銃を撃つ姿は美麗だ) |
|
【東京都 国道一号線】 |
|
護送車の背面に接触し後方に吹き飛ばされた夜銃は… 後方宙返りをしながら、華麗に着地した。 ただの後方宙返りではない! 50m後方に移動する。 長距離の後方宙返り! |
|
なんだあれは? 何が起きた… |
|
後方を見ていた羽山アキラはあまりの超常に愕然とした。 |
|
おい、仇山! 生きてるか? |
|
は・はい。 | |
若ゴリラは、護送車の後方座席に座っていた仇山的助を確認した。 |
|
羽山は仇山を確保しておけ! 俺は外に出て襲撃した男の確認をする。 |
|
了解。 | |
ヒュン! また風を斬る音が聞こえた。 |
|
!! | |
ガコンッ という音と共に・・・ 護送車が真っ二つ に割れた。 運転席と助手席の中間が綺麗に分断される。 |
|
なんだこれ!? こんなシーンを昔のアニメで見たぞ!! |
|
昔やってた男らしいアニメですか? | |
二つに分断された護送車は まるで二つに割れたスイカのように2つに分断される。 |
|
な・なんだ! なにが起きた!? |
|
仇山的助は倒れた車両の左側面で、混乱をしていた。 |
|
カタキ持ちの身柄を拘束する。 | |
ひっ・・・!! | |
夜銃はいつのまにか、仇山的助の手が届く距離まで移動していた。 夜銃は右手に武装した日本刀の切っ先を、仇山的助につきつけた。 |
|
ま・・まて! | |
なんだこの冗談みたいな 野郎は? |
|
警察官。 いや……国家権力の番犬は、鎖につながれた状態で俺を眺めていれば良い。 |
|
ふ・・ざ・けるな!! | |
若ゴリラが携帯していたSIG SAUER(シグ・ザウエル)P230JPという名の自動拳銃を構える。 |
|
弾など当たらぬよ。 | |
夜銃がそう言った直後…… 銃弾が風を斬る音が聞こえた。 そして・・・ 夜銃の左腿に銃弾が打ち込まれた! 夜銃の左腿が血で赤く染まった。 |
|
ぐむぅ!! | |
若ゴリラ・・・ 拳銃を撃つときは警告してからじゃないと、後々面倒な事になりますよ。 |
|
俺は撃ってねぇ! | |
夜銃の左腿から血があふれでる。 夜銃はたまらず片膝をつく。 |
|
ふ、不覚! まさかグノーシャから奇襲を受けるとは…… |
|
(グノーシャ…? まさか女銃鹿からの援護射撃?) |
|
【観覧車】 |
|
銃弾が左腿に命中しました。 | |
女銃鹿は名古屋の観覧車から、東京にいる夜銃を狙撃した。 攻撃は夜銃の左腿に命中。 夜銃の武器である機動力に多大な損害を負わせた。 |
|
やはりグノーシャの戦いは、先手をとったほうが圧倒的に優位ですね。 | |
え……もう勝ったのか? | |
次でとどめです。 | |
女銃鹿は拳銃の引き金を3連続で引く。 光速で突き進む3発の銃弾が、東京にいる夜銃に襲いかかる。 |
|
これで夜銃はしばらく動けなくなるでしょう。 | |
【東京 国道一号線】 |
|
(腿を狙ったのか……なぜ最初から頭部を狙わない? 殺すつもりがないのか?) |
|
夜銃が腿に手をあてる。 腿からは大量の血が流れている。 |
|
武器を捨てて投降しろ! 傷の治療はこちらでやってやる。 |
|
相手はどこだ? | |
夜銃は足を痙攣させながら立ち上がり、周囲を見回す。 ・・・・・ ・・・ その刹那……夜銃の斜め45度上空から 女銃鹿が撃った3発の銃弾が、夜銃を襲う。 |
|
狙撃手は愛知県の名古屋か・・・ | |
夜銃が刀を上段に構える。 |
|
!! | |
ぬぇぇぇん! 面! |
|
そして・・・ 2回連続で刀を振りおろした。 2回連続で振りおろされた刀が、2発の銃弾を地面に叩き落とす。 |
|
突きィリィ!! | |
夜銃は奇声をあげながら、3発目の銃弾を刀の切っ先で突いた。 鉄と鉄がぶつかり合う音が周囲に鳴り響く。 そして・・・ 女銃鹿の放った銃弾は、遙か上空に弾(はじ)かれた。 |
|
全てはじかれた!? | |
どのグノーシャかは知らぬ。 だが俺の目的を阻むなら死ね。 |
|
夜銃の刀で弾かれた銃弾が…… 放物線を描きながら高速で移動する。 弾かれた銃弾が瞬く間に東京都から都外へ出る! 弾かれた銃弾が…… 山梨県を通過! 長野県を通過! 岐阜県を通過! 弾かれた銃弾が、女銃鹿のいる愛知県に突入! |
|
? | |
おい・・なんかヤバイ 感じがするぞ!! |
|
弾かれた銃弾が、斜め45度の角度から、女銃鹿がいる観覧車のゴンドラに急接近した。 |
|
危ねーーー! | |
直感的に危機を察知した売れ杉三号が、女銃鹿の上におおいかぶさった。 |
|
あ、あの? | |
|
|
がっ! | |
!? | |
大丈夫か? | |
それは私のセリフです。 それよりも・・・ |
|
女銃鹿はおおいかぶさった売れ杉三号をふりほどいて、売れ杉三号に命中した弾を拾い上げる。 |
|
こ、これは私の銃弾! 刀で弾かれた銃弾がここまで飛んできたという事ですか!? |
|
それよりも敵は? 敵はどうなった? |
|
しまっ…… | |
女銃鹿はゴンドラの窓から顔を出して、東京の護送車を∞視点で目視した。 護送車付近には夜銃がいない。 |
|
・・・・・。 | |
仇山的助もいない。 護送車付近を見回したが、警察官以外は誰もいなかった。 |
|
ほんの一瞬、目を離しただけで・・・ | |
おい。 どうなったんだ? |
|
夜銃を逃しました。 | |
女銃鹿は悔しさと、ふがいなさのあまりうつむくしかなかった。 |
|
夜銃は仇山的助を拉致し、どこかに消失しました。 | |
次の話へ 前回の話へ TOPに戻る |