第14話 | |
夜銃「死刑が無くなったのなら……江戸時代のようにカタキ討ちを法制化すればよいのだ」 |
死刑が無くなったのなら…… カタキ討ちを復活させるしかない。 |
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あなたは一体…… |
【夜の森】 |
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私の名前は木村権造(きむらごんぞう) 年齢は55才。 職業は石工。 私は今、誰もいない夜の森にいる。 ウシガエルの鳴き声だけが鳴り響く夜の森に…… |
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木村さんの手で娘のカタキをとるんだ。 俺はそのお膳立てをしてやる。 |
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私は奇妙な男と会話している。 男の顔は髪とヒゲでおおわれていて見えない。 体は大きく2mぐらいあり…… 筋肉質で重量級の格闘家に似た体型をしている。 |
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私自身の手で、カタキをとることができるのですか? | |
可能だ。 | |
私がなぜ・・この男に出会ったのか。 それは2時間前にさかのぼる。 |
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【警視庁】 |
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私の娘は1ヶ月前に謎の失踪を遂げた。 私は四方八方手を尽くしたが娘は見つからず、途方にくれていた。 そんなある日・・・ 警察から失踪した娘が見つかったと知らせが入った。 私は大急ぎで警視庁まで足を運ぶ事となった。 |
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木村さん…… お待ちしておりました。 |
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午後の6時…… 警視庁についた私は、事件を担当していただいている羽山アキラさんと、話をする事となった。 |
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刑事さん。 失踪していた娘が見つかったのですか? |
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大変申し上げにくいのですが。 | |
? | |
娘さんはもう 亡くなられております。 |
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娘が…… 亡くなった? |
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なんですか! どういうことなんですか! |
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娘さんは誘拐されていました。 そして誘拐犯に殺害されたのです。 |
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そんな馬鹿な!! | |
私は冷水を頭からかぶったような衝撃をうけた。 全身に鳥肌がたち。 あまりの寒さに身震いをした。 |
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かける言葉もございません。 | |
娘に…… 死んだ娘に合わせてください。 |
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合わないほうが…… | |
近くにいた他の刑事さんが意味ありげな言葉を発した。 |
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それはどういう意味ですか? | |
死体の状況がよくありません。 もし見られたら。精神的なショックを受ける可能性があります。 |
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娘はどうなったのですか? | |
・・・・・。 | |
刑事さんが急に押し黙った。 |
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? |
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娘さんは胸から上を切り取られ。剥製にさせられました。 |
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は? | |
一瞬……刑事さんが何をいっているのか分からなかった。 剥製……? 娘が剥製に? |
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私は冗談を聞きにきたのではありません。 真面目に話してください。 |
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真面目ですよ。 娘さんは胸から上を切り取られ、剥製にさせられたのです。 |
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・・ ・・・・ ・・・・・・ |
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そんな馬鹿な話があるか! |
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・・・・・。 | |
あなたの言葉は信用できない。 娘に合わせてくれ! 私の目で娘に何があったか確かめる。 |
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刑事さんはしばらく目を閉じて考えた。 そして軽く息を飲み・・・ |
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もちろんお見せします。 どちらにしろ本人確認のために、身内の方に見てもらう予定でした。 |
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本人確認がまだなんですか? ではまだ娘でない可能性もありますよ。 |
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・・・・・・。 | |
刑事さんは返答しなかった。 こんな状況下で事務的な対応をしている刑事に、私は怒りを覚えた。 |
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ついてきて下さい。 遺体安置所にご案内します。 |
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【遺体安置所】 私は刑事さんに警視庁の地下にある、遺体安置所に案内された。 遺体安置所は車庫に似た空間だった。 コンクリートに覆われたシンプルな空間。 複数の鉄でできたベッドと、線香をたく木製の台が置いてある。 |
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ここが遺体安置所。 | |
ここです。 | |
鉄でできたベッドの上には、ビニールの袋で包まれた死体が置かれている。 刑事さんはその中の一つを指差した。 ベッドの上には、小さなサイズのビニール袋に包まれた何かが置かれていた。 |
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木村権造さん。 死体はとてもショッキングな状態です。 気を強くもって下さい。 |
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そういうと刑事さんは小さなサイズのビニール袋を取り外す。 |
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・・・・・・。 | |
ビニール袋の中には上半身を切り取られた娘が置かれていた。 皮膚は柔らかさを失って硬質化している。 肌はまるでセミの外皮のように固そうだった。 死んだ人間とはまったく違う・・・ 娘は人間の剥製になっていた。 |
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!!!! | |
恐怖と怒りの滝が全身に降り注ぐ。 あまりの衝撃で全身の感覚が麻痺してきた。 |
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娘さんに間違いないですか? | |
娘…? これが私の娘? |
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私はもう一度、剥製の顔を見てみる。 娘の顔をこれほど凝視したのはいつ頃ぶりなのだろうか。 私は娘の髪型が変わっても気がつかない駄目な父親だった。 ・・・・・ ・・・ ・ |
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間違いありません。 私の娘です。 |
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どんな変わり果てた姿でも娘は娘だった。 どんなに固くなろうとも…… どんなに切り取られようと…… 世界でただ一つしかいない娘の形をしていた。 |
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そうですか。 残念です。 |
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・・・。 | |
・・・・・・・。 | |
犯人は捕まったのですか? | |
被疑者なら捕まえました。 犯人の名前は仇山的助(かたきやま まとすけ)20代後半のフリーターです。 |
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仇山的助。 | |
その男が私の娘に酷い事をしたのか。 |
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被疑者の証言では、娘さんをマウスパッドにしたそうです。 | |
マウスパッド? | |
意味が分からない。 それは人間の所業なのか? |
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ええ……マウスパッドです。 仇山的助は…… |
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何がマウスパッドだ! 娘は物じゃない! 物じゃないんだ! |
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目から大量の涙があふれでる。 もう冷静ではいられない。 もう人の心を維持できない。 刑事さんの両肩を握りつぶすぐらいの気持ちで、ガッチリつかむ。 |
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どうして助けなかったんだ! 助けるのが警察の仕事だろ! 責任をとれ! |
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・・・・・。 | |
くだらない駐車違反を取り締まる暇があるのなら、なぜ娘を助けない!! | |
刑事さんは私から目線を外さない。 困った顔で私を凝視している。 |
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そうやって困った顔をして私を見下しているのか? | |
私は完全に冷静さを失っていた。 |
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私の顔を殴って下さい。 | |
え? | |
公務執行妨害とかケチ臭い事はいいませんから、殴って下さい。 | |
・・・・・? | |
殴る勇気もありませんか? | |
馬鹿にするな!! | |
私は拳を振りあげ刑事さんの顔を…… 刑事さんの鼻の頭を殴った。 刑事さんは鼻から血を流し、後ろに転倒して尻餅をつく。 |
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あ・・。 | |
刑事さんの傷つく姿を見た瞬間…… 私の脳はいっきに冷却され罪悪感だけが残った。 私はなんて事を… 罪のない刑事さんを殴ってしまった。 |
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す……すいません。 ついカッとなって。 |
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冷静になったようですね。 殴られたかいがありました。 |
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・・・・・ ・・・ ・ |
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あの…… 娘と2人きりにさして下さい。 |
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・・・・・・。 | |
お願いします。 娘と2人で…… |
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分かりました。 10分だけ席を外します。 まだ調べることがあるので娘さんの体には触れないで下さい。 |
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ありがとうございます。 | |
そういうと刑事さんは遺体安置所の外にでていってくれた。 私は娘と2人きりだ。 |
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ごめんな雪子。 父さんお前を助けられなかったよ。 |
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娘は返答しない。 |
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父さんはお前の事を、母さんにどうやって報告すればいいのかな? | |
娘は返答しない。 |
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さすがに返事はないか。 | |
私はたまらない気持ちになって娘の頬を爪先で触った。 その瞬間…… 私の脳に娘の声が流れ込んできた。 この男は苦しんで死ね! この男は苦しんで死ね! この男は苦しんで死ね! |
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!! | |
私は驚いて娘から爪先を離す。 爪先を離した勢いがあまって、3歩後ずさりして尻餅をついた。 |
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げ…幻聴? | |
私の手は震えつづける。 もう一度娘の体に触れてみる。 今度は何も起きない。 |
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やはり幻聴……? いや…あれは確かに娘の声だった。 |
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遺体安置所の外にいた刑事さんが、大急ぎで死体安置所にはいってきた。 |
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どうしたんですか? | |
な…なにもありません。 | |
……? そ…そうですか。 |
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娘は報復を望んでいたのだろうか? 「この男は苦しんで死ね!!」 という娘の声が脳裏に離れない。 |
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娘さんに何かしましたか? | |
娘の声が。 | |
娘さんの? | |
いえ…… 何もありません。 |
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??? | |
あの…… |
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娘の望みを叶えるのが父親の務めですよね? | |
刑事さんは不思議そうな顔をする。 突然、変な質問をされて困惑しているのだろう。 |
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娘さんの望み? 幽霊にでも出会ったんですか? |
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幽霊? そうか幽霊か。 |
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私の顔がゆっくりと戦う男の顔に変化する。 「この男は苦しんで死ね!!」 娘の幽霊が犯人の死と苦痛を望んだのだ! |
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やらなければならない事ができました。 | |
どうしたんですかさっきから変ですよ。 | |
私は犯人に合わなければなりません。 犯人はどこにいるんですか? |
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刑事さんの顔が急に強張る。 |
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被疑者との接見を希望しますか? | |
はい! | |
被疑者の仇山的助は警視庁の留置所にいます。 | |
捕まっているのですね。 ではすぐに合わせてください。 |
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今日は事情聴取があるので無理です。 | |
事情聴取ですか…… まだ仇山的助が犯人と決まったわけではないのですか? |
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証拠も多数見つかりましたし…… 仇山的助の証言と証拠が一致しています。 仇山的助が犯人の可能性は極めて高いでしょうね。 |
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そうですか。 仇山的助が犯人ですか。 |
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私は獲物を狙う狩人のような目でそう答えた。 |
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犯人に会えないなら…… 犯人の顔写真だけでも見せてください。 |
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いいですよ。 待合室で写真を渡しますので、待合室までいきましょう。 |
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刑事さんはそう言って遺体安置所を出て廊下を歩きだした。 私は慌てて刑事さんの後をついていく。 ・・・ ・・ ・ その時、私と刑事さんの頭上を…… 2mぐらいの黒い何かが通り過ぎた。 黒い何かは少なくとも音速ジェット機よ早い速度で移動した。 |
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!! | |
何かありましたか? | |
え……刑事さんは気がつかなかったんですか? | |
刑事さんが首を傾げる。 |
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天井を黒くて大きいのが通り過ぎましたよ。 | |
ゴキブリですか? 警視庁でも出るんですね。 |
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違います! 2mぐらいの何かです! |
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そんな大きいものなら私でも気がつくと思いますが…… | |
そ…それは… | |
木村さん。 人間は追い込まれると、よからぬ幻覚を見るものです。 |
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!! | |
た・・たしかにそうだ。 今日の私はどうかしている。 |
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娘さんの事を考えれば、混乱されるのも無理もない。 | |
・・・・・・。 | |
私は押し黙るしかなかった。 刑事さんの言うとおりだ。 私は間違いなく混乱している。 【団体待合室】 |
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それから5分後…… 待合室に到着した私は、そこで刑事さんを待つことにした。 |
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私は混乱していたんだな。 | |
冷静に考えれば娘の幽霊に出会うはずはない。 廊下の天井で2mぐらいの黒い何かが通り過ぎたのも、錯覚なんだろう。 |
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これから裁判で犯人と戦うことになる。 だからこそ私は冷静であるべきなんだ。 |
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いや・・あんたは 驚くほど冷静だよ。 木村権造さん。 |
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突然…… 背後から男の声がした。 |
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!? | |
振り向くとそこには奇妙な男がいた。 男の顔は髪とヒゲでおおわれていて見えない。 体は大きく2mぐらいあり…… 筋肉質で重量級の格闘家に似た体型をしている。 |
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馬鹿な! これも幻覚なのか? |
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あの状況下で俺の動きを視認したんだ。 賞賛に値する。 |
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幻覚じゃないのか? さっき廊下でみた2mぐらいの黒い何かはあんたなのか? |
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そうだ。 | |
あんたは何者なんだ? なぜ私の名前を知っている。 |
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俺の名前は夜銃(やじゅう) 弾丸のグノーシャだ。 |
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弾丸? グノーシャ??? |
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俺は「とある目的」の為に警察の捜査資料を盗み見していたのだ。 木村さんの名前はそこで知った。 |
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盗み見? あんたは犯罪者なのか? |
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罪人ではない。 | |
だったら何者なんだ? | |
あんたの望みを叶える者だ。 | |
望み? | |
木村さん…… あんたは娘のカタキを自分の手でとりたくはないか? |
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そ…それは…… | |
奇妙な男の提案は私にとって魅力的な提案だった。 コンコン。 待合室の外からノックをする音がする。 |
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木村さん入りますよ。 | |
どうやら刑事さんが戻ってきたようだ。 |
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ここではゆっくり話ができないな。 場所を変えよう。 |
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そういうと男は強引に私を抱きかかえる。 |
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!! | |
年をとった男をお姫さまだっこか…… 気分の良いものではないな。 |
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は……離せ!! | |
すぐに離す。 | |
ガチャ…… 刑事さんが扉を開けて、待合室の中に入ってきた。 |
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何かあったのですか? | |
扉が開いた瞬間…… 私を抱きかかえた奇妙な男は 光速に限りなく近い速度で警視庁の外に出た。 |
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な……? | |
何が起きたのか把握できない。 瞬間移動? いや違う! この男は生物とは思えない速度で移動したのだ。 |
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人間じゃない。 | |
男は、はきだされた弾丸のように一瞬で目的地まで移動した。 そしてこの男が移動したことを誰も気がついていない。 |
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∞機動 | |
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【夜の森】 |
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ここは誰もいない夜の森。 ウシガエルの鳴き声だけが鳴り響いていた。 |
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あんた何者なんだ! あんた何者なんだ! |
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俺の名前は夜銃(やじゅう) | |
私に何をするつもりだ? | |
俺の提案を断ったなら。 何もしない。 お帰りいただく。 |
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提案? |
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木村さん…… あんたは娘のカタキを自分の手でとりたくはないか? |
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そ・・それは・・・。 | |
警察の捜査資料を盗み見して分かった事がある。 仇山的助(かたきやま まとすけ)は、間違いなく木村さんの娘を殺した犯人だ。 |
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!! | |
仇山的助は間違いなく無期懲役になるだろうな。 | |
奇妙な男は突然…… 刑罰の話をはじめた。 |
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無期懲役!? | |
日本で死刑が廃止されたのは知っているな。 | |
は・・はい。 | |
仇山的助は死刑に値する罪を犯した。 だが日本では死刑が廃止されたのだ。 |
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!! | |
奇妙な男の発言に間違いは無い。 1年前に日本では死刑が廃止された。 こんな理不尽なことはない。 |
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娘にあんな事をしておいて無期懲役…… | |
死刑が無くなったのなら… カタキ討ちを復活させるしかない。 |
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・・・・・。 | |
江戸時代のようにカタキ討ちを行えばよいのだ。 | |
真っ暗な森の中で…… 奇妙な男の目は光り輝いていた。 奇妙な男の目は獲物を狙う野獣のようだった。 |
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