第13話 | |
三号「秋葉原での戦いの翌日。俺はグノーシャを管理する「なゐの神衣」と呼ばれる人物に出会った」 |
三号君つきましたよ。 このビルです。 |
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このビルのどこかにグノーシャを 管理している「なゐの神衣」の事務所があるのか。 |
俺の名は売杉三号。 俺はグノーシャの管理をしている「なゐの神衣」という政治家にあう為、新宿に来ている。 |
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【新宿の高層ビル】 |
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ここは新宿の一等地にある高層ビル。 箱型の味気ないビルが多い日本の中では、ユニークなデザインのビルだ。 |
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新宿の一等地にあるビルに事務所か… 金を持ってる人間なんだな。 |
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お父様は旧財閥の個人資産を受け継いだ御曹司です。 お金はあるのだと思います。 |
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そう言いながら女銃鹿は高層ビルの中にスタスタと入っていく。 俺も急いで後を追うことにした。 |
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パパは怖い人だけど、無礼な態度には寛容だからあんまり緊張しなくていいよ。 | |
そうか……失言でぶっ殺される心配はなくなったわけだ。 | |
女銃鹿や妹ちゃんの気楽な態度をみるかぎり、そこまでヤクザな人間ではないのかもしれない。 |
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ついてきてください。 | |
女銃鹿の案内でエレベーターで30階まで登る。 その後、ゴミ一つない灰色の絨毯がしかれた廊下を30mぐらい進む。 そして「なゐの神衣 事務所」と書かれた、金色のプレートが張られた扉につきあたる。 |
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到着なのー♪ | |
早くつくもんだな・・・。 | |
女銃鹿は扉の横に設置してあるインターホンで俺を連れてきたことを伝えた。 ほどなく・・・ドアのロックが外れ。 インターホンから「はいりたまえ」と精悍な男の声が聞こえてくる。 短いフレーズから品位と知性が感じとれる。 声だけでもデキる男というのが1秒で伝わってくる。 |
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この声のぬしが・・・なゐの神衣? もしかして「デキる男様」ですか? |
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生物界のピラミッドの頂点に位置する「超デキる男様」ですよ。 | |
失礼します。 | |
女銃鹿が扉を開け中に入る。 中は社長室というイメージがしっくりくる部屋だった。 役員用のエグゼクティブデスク。 ダークブラウンの飾り棚付書棚 。 総革張りのソファー。 ペルシャ絨毯。 どれも高そうだ。 |
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・・・・・・。 | |
そして布張りのエグゼクティブチェアに、一人の男が腰掛けていた。 |
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来たか。 | |
年齢は40代前半、身長は175cm前後・・・ 目つきは鋭く赤い瞳をしている。 目を合わせただけで緊張して尿意を感じてしまう。 その横には妹ちゃんと同年代ぐらいの少女が立っていた。 |
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・・・・・・。 | |
身長は145cm前後、身長のわりにはグラマーな体型をしている。 白髪で赤い瞳をしており目の焦点があっていない。 ぴくりとも動かないので、近くで見ても精巧なマネキンか何かと勘違いしそうだ。 |
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蜻蛉斬り(とんぼきり)さん、おひさなのー♪ | |
女銃鹿と妹ちゃんは自宅のソファーに座るのと同じ感覚で、気楽にソファーに座る。 俺は就職試験を受ける学生のようにギコチなくソファーに座った。 |
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はじめまして売杉三号君。 私はグノーシャの総管理者なゐの神衣だ。 |
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ど……どうも…… 売杉三号っす。 |
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俺はすごまれてもいないのに意味もなく、萎縮してしまっている。 |
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なるほど見事な体格だな。 この体で数々の攻撃を耐え抜いたわけだ。 |
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丈夫さはグノーシャで最上位にはいると思います。 | |
・・・・・。 | |
なんか言うほど怖い人物じゃないな。 妹ちゃんが怖い人というから無駄に緊張してしまった。 |
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私はまわりくどいのは嫌いでね。 一つ私と簡単な取引をしないか? |
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取引ですか? | |
そう・・・君が私の質問に答えてくれたなら。 君の知りたいことを私も答えよう。 |
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!? | |
これは……もの凄く魅力的な取引なんじゃないか? 俺が知ってる情報なんてたかがしれている。 そんなもので情報が手にはいるなんて、俺得にもほどがある。 |
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俺としては大歓迎な取引です。 | |
それは良かった。 ではさっそく君に質問しよう。 君は女銃鹿に初めて出会った時、一目散に逃げ出したそうだが……それはどうしてかね? |
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それは女銃鹿の「銃の頭」を見たからです。 見たことのない怪物を見た俺は、命の危険を感じ逃げました。 |
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「銃の頭」
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命が惜しかったのだな・・・。 だがその後に君は女銃鹿の妹を逃す為に、女銃鹿と命がけの戦いをした。 |
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そういえば、そんな事あったな。 妹ちゃんと女銃鹿がグルだったとも知らないで、女銃鹿の魔の手から妹ちゃんを救おうとしたんだっけな。 |
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なぜ女銃鹿の妹を助けようとしたんだ? | |
自分の命は惜しかったですが・・・ それよりも小さな妹ちゃんを見殺しにできなかった。 だから助けようとしました。 |
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なんだろ…… すごーく当たり前でつまらない質問をされてる気がする。 |
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ありがとう。 質問は以上だ。 |
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ええ!! こんだけ??? なにこれ? クレペリン検査か何かか? |
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では……次は私が答える番だな。 おそらく君の知りたいことは全て答えられるはずだ。 |
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あの……お父様。 なんでも答えるのですか? |
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そうだ。 全ての情報を教えたほうが効率的だ。 |
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知りたいこと…… とりあえず一番知りたいことは女銃鹿が何をやっているかだ。 グノーシャがどういう生命体か詳しく聞いてみたい気もするが…… 女銃鹿は解明されてない部分が多いって言ってたし、大した情報は入手できないだろ。 |
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・・・・・・ | |
女銃鹿の…… | |
質問をかえなさい! 三号君! |
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女銃鹿が大声で反発した。 この質問は本来、女銃鹿から聞くのがスジなのかもしれない。 だが・・・それはいつだ? 聞かなければ、いつまで立っても俺は置いてけぼりだ。 |
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口を閉ざせ。 | |
は・・はい | |
あの、女銃鹿が即座に口を閉ざす。 女銃鹿は顔を紅潮させ歯をくいしばる。 |
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君は真っ先に女銃鹿の情報を聞くのか? それはなぜかな? |
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俺は女銃鹿と妹ちゃんの仲間になりたい。 |
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!? | |
それは初耳なのー。 | |
でも仲間になると言っても…… 俺だけ何も分からない。 俺だけ女銃鹿が何をやってるか知らない。 |
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・・・・・。 | |
だから知りたい。 お互いのことを良く理解して仲間になりたい。 |
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知ってしまうことで良好な人間関係が損なわれることもある。 | |
そうですよ! 三号く…… |
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口を閉ざせ。 | |
は・・はい!! | |
知ってしまう事で人間関係が損なわれる? 確かにそういう可能性はある。 じゃあ何もしらないまま…… 阿呆のままでも……いいのか? |
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お姉ちゃんは、元処刑囚を処刑しているの。 |
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!! | |
!! | |
ふっ…… | |
元処刑囚を処刑? 人を殺しているのか? |
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言わないという約束だったではないですか! |
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断言してもいいけど… どっちにしろ一ヶ月以内にばれると思うよ。 グノーシャでお姉ちゃんのやってる事を知らないのは、三号君だけだし…… 三号君が他のグノーシャと接触すれば、簡単に分かると思うよ。 |
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ぐっ…… | |
不満そうだね。 あの時みたいに私を殴るのかな? |
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そんなことは絶対にしません!! |
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どういうことなんだ…… 女銃鹿? |
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・・・・・・。 | |
去年の今頃、日本で死刑制度が廃止されたのは知っているか? | |
そういえば妹ちゃんからそんな 話を聞いたな。 |
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ああ・・・知ってる。 妹ちゃんから聞いた。 |
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!! | |
死刑が廃止されたことによって、死刑にされるべき人間が死刑を免れた。 女銃鹿はそんな死刑を免れた元死刑囚を殺してまわっている。 |
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で…でも どうやって……? |
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∞射程。 |
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むげんしゃてい??? | |
女銃鹿は、どんな離れた相手でも銃撃できる特殊な力を持っている。 | |
!! | |
俺は公園の観覧車で女銃鹿が銃を撃っているのを思い出した。 どんな遠くの人間も銃撃できるということは…… あのとき、人を殺していたのか? |
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でも…そんなの可能なのか? 観覧車の時も殺してたのか? 秋葉原の時も殺してたのか? |
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グノーシャにとっては普通の力だ。 いずれ君も「∞の力」を手に入れるだろう。 |
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女銃鹿が殺ったという証拠は? | |
ないな…… 女銃鹿は証拠を残さない。 元死刑囚を殺した手口と動機を考えれば、女銃鹿以外に考えられないがな。 |
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し…信じられん。 女銃鹿が殺人を…… |
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もういい…… | |
え? | |
もういい! 私が元処刑囚を殺した張本人だ! だからなんだというのです! |
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女銃鹿が勢いよく席を立ち俺を睨んだ。 |
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さっきから聞いていれば、私が悪人のような流れではないですか! | |
でも法律違反だよな? | |
「法律=正義」ですか? くだらない!! この世界には人を不幸にする法律が腐るほどある!! |
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女銃鹿の我慢していた活火山がいっきに噴火したようだ。 |
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死刑が廃止される前の日本では…… 2人以上の人間をレイプして殺せば死刑になりました。 |
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・・・・・。 | |
それぐらい悪質な罪ならば、死刑になる可能性があった。 |
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・・・・・。 | |
だが今はどうです? 彼らはのうのうと刑務所で生きている。 被害者の遺族がどれだけ負担を感じているのか、考えた事がありますか? |
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いや…… 分からないけど…… |
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俺は生まれて初めて、むき出しの女銃鹿をみた。 |
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死刑がなくなったならば、誰かが代わりに死刑をやらなければなりません! |
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女銃鹿…… | |
俺は女銃鹿の言ってることが正しいか間違ってるかよく分からない。 女銃鹿はキレている。 キレてるのは伝わったけど…… なんで俺にキレてるんだ? 俺は女銃鹿と仲間になりたいだけなんだ。 死刑なんて興味ねぇよ。 |
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・・・・! | |
もしかして…… 今が絶好の機会なんじゃないのか? 女銃鹿の考えを支持すれば…… 俺は女銃鹿の仲間になれるんじゃないのか? |
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俺は女銃鹿の言ってることは正しいと思うよ。 |
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!? | |
え・・? |
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もし俺が女銃鹿の協力をすると言ったら。女銃鹿は俺を本当の仲間だと認めてくれるのか? | |
全て肯定しろ。 そうすれば仲間ができる。 |
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え……あ…… その… |
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女銃鹿が一気に動揺する。 |
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本気ですか? 私の考えに共感してくれたのですか? |
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ああ…… 女銃鹿の主張は正しい。 |
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!! | |
・・・・。 | |
一瞬沈黙が流れた。 |
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俺を仲間にしてくれ。 | |
も・・・もちろん仲間として歓迎します。 グノーシャの仲間ができるのはとても心強い! |
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女銃鹿の顔が鼻先5cmの距離まで接近して、俺の手を両手でがっしり握った。 女銃鹿は手を離してくれそうにない。 女銃鹿も仲間が欲しかったのだろうか? |
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ふっ…… | |
何がおかしいんだよ? | |
いや…友達のいない小学生が、周囲に媚びる姿を見ている気分だ。 |
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お父様。 それはあまり失礼です。 |
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いや……失敬。 単純な人間がうらやましい。 |
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・・・・・。 | |
三号君。 気にしたら負けです。 |
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妹ちゃんが複雑そうな顔で、俺のズボンを引っ張っている。 |
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三号君、本気でいってるの? | |
ああ! これで女銃鹿と妹ちゃんの仲間だ! |
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仲間……ね…… 三号君はシンプルすぎるよ。 |
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??? | |
妹ちゃんは少しガッカリしている。 今の俺には妹ちゃんの真意は分からない。 |
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私は三号君が真実を聞けば反対すると思っていました。 でもそれは杞憂だったのですね。 |
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簡単に三号君を信じちゃって大丈夫なのかな? | |
確かにいきなり信頼するのは危険ですね。 しばらく様子をみて、正式な仲間になってもらいます。 |
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正式な? | |
それは信頼できると判断したら説明します。 | |
そうか…… 口先だけじゃ信頼できないもんな。 |
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ここから先は行動で示さないと信頼されないようだな。 |
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話はまとまったようだな。 | |
はい。 三号君をお父様に会わせてよかったです。 |
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私自身も三号君の本質が見ることができてよかったよ。 | |
女銃鹿が俺に笑顔を向けている。 俺が欲しかったのはこんな笑顔だ。 仲間の笑顔のためならなんにでもなってやるさ。 |
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三号君の危険な部分がよくわかったよ。 これから気をつけないとね。 |
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・・・ ・・ ・ 1時間後。 俺と女銃鹿と妹ちゃんは「なゐの神衣」と簡単な書類のやりとりをすませ帰路につくこととなった。 |
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女銃鹿は帰ったようだな。 | |
・・・・・。 | |
蜻蛉斬り(とんぼきり)は三号君をどうみる? | |
幼い。 | |
今まで沈黙を守り続けた蜻蛉斬りという名の少女が、抑揚の無い声で答えた。 少女の動作はきわめて少なく、口を開いてもマネキンのようだった。 |
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まだ生まれたばかりのグノーシャだからな。 彼には様々な経験をして欲しい。 |
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三号の生きる目的は? | |
彼はまだ生きる目的を見いだせていない。 しばらくは女銃鹿に縛られながら生きるだろう。 |
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喪失体験(そうしつたいけん)をすれば変わる。 | |
そうだな……彼に足りないのは喪失体験だ。 彼は大事な人を失わなければ、大人になれない種類の人間だろうな。 |
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じゃあ女銃鹿殺す? 妹ちゃん殺す? |
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少女は女銃鹿の命も、妹ちゃんの命もなんとも思ってないようだ。 |
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あの2人が日本にとってなんの価値もないグノーシャなら、殺せば良い。 現時点では2人を殺す理由はないな。 |
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・・・・・。 | |
グノーシャを野に放ったのは、日本を強制的に変革するためだ。 期間以内に三号君が行動を起こさなければ、三号君を殺せばいい。 |
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・・・。 | |
日本は変わらなければならない。 明治維新のように… 戦後日本のように… |
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なゐの神衣は窓の前に立ちビルの下を見下ろした。 見下ろした先にはいつもと同じ日本がうごめいている。 何度も見た見慣れた日本。 |
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この国は長く変わらなさすぎた。 | |
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