第6話 | |
三号「俺は人間ではなくグノーシャだった。その真実を知った俺は病室で大暴れした」 |
俺は・・・人間では無い・・・ グノーシャだ・・・ |
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・・・・・・ |
夜8時…俺は病室で呆けていた。 8時間前に自分が人間ではなく、グノーシャだという真実を知った。 その後。 俺は大暴れした。 窓ガラスを割るわ… 鏡を破壊するわ… ベッドをひっくり返すわ… 女銃鹿や女銃鹿の妹ちゃんに暴言を吐くわ… 人間のクズそのものだった。 |
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落ち着いたー? | |
妹ちゃんが心配そうな顔で俺を見ている。 妹ちゃんは大暴れしている俺を止めようとして俺に殴られた。 俺は妹ちゃんを殴ってしまったショックで我に返ったが…… 妹ちゃんの顔に大きなアザができた。 |
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ごめん許してくれ。 馬鹿だな俺は。 |
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殴られた事なら別にいいよ。 傷ならもう治ったし。 |
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女の子を殴るなんて、俺は最低のクズ野郎だよ。 | |
そうだねー。 じゃあ「貸し1」という事で♪ |
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こうやって明るい態度で話してくれるのは、妹ちゃんの優しさなんだろうな。 |
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俺さ、しばらく女銃鹿や妹ちゃんの指示に従おうと思うんだ。 | |
どうしてかなー? 信じたら危険かもしれないよ。 |
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まだ分からない事だらけだし… 俺自身どうしていいのか分からない。 |
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・・・・・ | |
でも1つだけ分かった事がある。 | |
何かなー? | |
俺は間違いなく馬鹿だ。 | |
・・・・・ | |
我ながら恥ずかしい告白だが。 真実だからしょうがない。 |
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だからもうちょい頭が良くなるように周囲を観察しつづけて勉強しようと思うんだ。 それまでは大人しく周囲に付き従う予定だ。 |
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すぐ怒ったり……すぐ反省したりする所はあるねー。 まずは平常心から身につけたらどうかな? |
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年下に痛いところをつかれた…… いや年齢は関係ないか。 |
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そうだな。 まずは平常心だ! |
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ギュるるっる・・・ 宣言した瞬間。 俺の腹部は収縮して地鳴りのような音をだした。 これは空腹時に起きる腹鳴りだな。 |
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すごいお腹の音なのー。 | |
いや……まじでなんか食い物ない? 吹っ切れたら空腹を思い出した。 |
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はい♪ お金と地図♪ |
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そういうと妹ちゃんは俺に2000円札と、驚くほど汚い字と線で更正された地図を渡したくれた。 地図の解読班を要求したくなるような地図だったが、妹ちゃんの親切心が詰まった地図でもあった。 |
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病院を出て100mぐらい歩いたところにコンビニがあるのー。 そこで好きな食べ物を買ってくるといいよ。 |
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よっしゃあー! ちょっくら買ってくか!! |
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俺は気合を入れて立ち上がった。 冷静に考えれば俺の置かれている状況は決して悪い状況ではない。 穏やかな妹ちゃんとの会話。 人間としてコンビニで買物もできる。 女銃鹿は……そういえば今どこにいるんだ? 分からない事は山積みだが、今の俺 がピンチであるわけがない。 【30分後 夜道にて】 |
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ピンチだ・・ 道に迷った。 |
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病院を出て30分ぐらい歩いただろうか、俺は人気の無い夜道で迷っている。 原因は妹ちゃんに渡された地図だ。 まず字が汚すぎて何が描いてあるのか読めない。 道の線も無駄な線が多すぎて理解不能だ。 俺は馬鹿だ。 なぜ妹ちゃんにどんな文字が書いてあるのか質問しなかった? |
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やばい…周囲に誰もいない。 | |
俺は人がいそうな場所を求めて歩く。 ひたすら歩く 気が付くと見知らぬ公園に来ていた。 【見知らぬ公園】 |
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なんか随分と整備されてない公園だな。 | |
あちらこちらでスズメノカタビラ(日本でよく見られる丈夫な雑草)が群落している。 公園の奥には観覧車が配置されているのが見える。 広い公園の中に小規模な遊園地がくっついているようだ。 |
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変なところに迷い込んだな。 元来た道に戻るしか無いな。 |
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俺はクルリと旋回し元来た道を戻ろうとした。 その時・・・ パァン 突然背後から何かが弾けるような音が聞こえた。 いや・・これは・・・ |
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銃声か? けっこう離れた場所から銃声がしたよな? |
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観覧車のほうから銃声が聞こえた気がする。 これは近づかないほうがいい。 |
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(君子危うきに近寄るべからず) | |
そう考えながらも俺の足は前に進む。 観覧車のほうに隠れながら突き進む。 どうして突き進む? 自分でもよく分からん。 よく分からんが俺は引き寄せられるように、観覧車のある場所へ突き進む。 |
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ゴンドラの中に誰かいるな。 比較的小さいサイズの観覧車で良かった。 それなりに視認できる。 |
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観覧車の一番上にあるゴンドラの中に誰かがいる。 もう少し近づけば見えるかもしれない。 その刹那・・・再度銃声が響き渡る パァーン |
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(こんどは見えた!) | |
ゴンドラの窓から外に手を出し拳銃を撃つ場面を目撃した! 観覧車の一番上にあるゴンドラで間違いない。 何も無い西側の空に拳銃を撃ったようだ。 |
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な……なんだ急に胸が苦しくなってきた。 | |
ドクン ドクン…… 自分の心臓が偉く大きく聞こえる。 というか心臓の音ってこんな大音量なのか? なんだこの感覚? 俺の目から涙があふれでる。 |
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なんだこれは? この場面で涙はおかしいだろ! |
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パァーン!! ゴンドラの窓から3発目の銃弾が放たれた。 |
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す…すげぇ… なんて美しいんだ。 |
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映画でいくらでも見た事があるシーンだ。 美しいなんて思うのはどうかしている。 引き金を引くだけ… 撃鉄が開放されるだけ… 撃針が雷管を叩くだけ… 銃弾が放たれるだけ… それだけなのに俺は猛烈に感動している。 |
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・・・・・・・ | |
断っておくが俺は感動しやすいタイプではない。 銃撃シーンの多いアクション映画なら10分で飽きて熟睡する自身がある。 そんな俺が感動している。 この感動は、モノクロテレビしか知らなかった昔の人が初めてカラーテレビを見たときと同じなのだろうか? 新しいゲーム機の美麗なグラフィックに圧倒された時と同じ感覚なんだろうか? とにかく俺は普通の銃撃シーンで感動して・・・ 大粒の涙を流した。 |
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うううう… 涙が止まらねぇ! |
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俺が感動の余韻に浸っていた。 その時。 突然ゴンドラの扉が開き… ゴンドラから見たことのある人物が登場した。 |
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!? | |
拳銃を撃っていたのは女銃鹿だった。 女銃鹿もこちらに気づいたようだ。 俺の位置を確認するとゴンドラから飛び降りる。 ゴンドラから地面までそれなりの高さがあったが… 苦も無く着地した女銃鹿は… 弾丸のようなスピードで俺の眼前まで移動した。 |
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ここで何をしているんですか? 返答しだいでは今すぐ射…… |
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……げぇ | |
? | |
女銃鹿すげぇ! | |
!? | |
女銃鹿にはボコボコにされた…… 言うことも嘘臭い…… だが銃を撃つ姿は驚くほど美しかった。 俺の口は賞賛するしかない。 |
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銃を撃っただけなのにすげー綺麗だった。 | |
え……いや…その… 人間よりは凄いかもしれませんが… 普通ですよ。 |
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女銃鹿は予想外の返答に戸惑っているようだ。 軽くデレている。 |
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いや! どう考えても凄い技だ! |
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あの… 一つ聞いていいですか? |
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なに? | |
あなたはここで何をしているのですか? | |
え……俺? |
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そうだ!! 俺は道に迷ったんだ!! |
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道に…? | |
そしたら銃声がして… 近づいたら女銃鹿が銃の練習をしてたんだ。 |
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銃の練習? そう見えましたか? |
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女銃鹿は俺に疑いの眼差しを向けている。 疑いの眼差し? 何を疑っているんだ? |
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銃の練習じゃなかったらなんなんだよ? | |
何も無い西側の空に拳銃を撃った筈だ。 練習じゃなかったらなんなんだ? 野鳥でも撃ち落していたのか? |
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・・・・・・ | |
女銃鹿は俺の質問に答えずに、俺を観察している。 |
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な……なんだよ? | |
信じましょう。 | |
急に女銃鹿は俺を信じたようだ。 というか何を疑ってたんだ? 相変わらず状況がさっぱり分からんぞ! |
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何も知らない三号君が、私の行動を把握できるわけがない。 | |
つーか教えろよ | |
駄目です。 | |
どうすれば教えてくれるんだよ? | |
このまま何も分からない状況が続いたら俺が損しそうだ。 なんとか情報を引き出さないと・・・ |
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明日の昼に三号君の貯金通帳と印鑑、そして保険証と運転免許証を渡します。 |
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へ? | |
それだけ渡せば三号君は自由です。 好きにしてください。 |
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どうして教えてくれないんだ? | |
女銃鹿が教えてくれない理由が分からない。 アニメにもよく出てくるよな。 謎の答えを知っているのに、主人公に謎の答えを教えないミステリアスキャラが。 謎なんか主人公にとっとと教えたほうが、主人公も混乱せんで済むのになー。 |
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私のために教えません。 | |
自分のためですか…… | |
そういうと女銃鹿は俺に背を向けスタスタと歩き出す。 あわてて俺も女銃鹿についていく。 けっきょく俺は単なる迷子なんだよな…… 女銃鹿についていくしかない俺は本当に弱々しい。 |
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私のやっている事を支持する日本人は多いと信じたい。 | |
え? | |
だが日本は一枚岩ではありません。 私の行動を非難する日本人も…… |
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女銃鹿は独り言をつぶやきながら歩いている。 俺には女銃鹿の独り言の意味がよく分からなかった。 でもなぜだろう・・・ 俺には女銃鹿が無理してつらい思いをしているように見えた。 |
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【翌朝の病室】
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というようなやりとりを昨日の夜に女銃鹿としたわけだが…… 女銃鹿が何をやっていたのか教えてくれ。 |
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女銃鹿と公園で遭遇した日の翌朝。 俺は病室で携帯ゲーム機で遊んでいた、妹ちゃんに昨夜の女銃鹿が何をやって いたか聞いてみた。 女銃鹿は俺に渡す資料の準備で席をはずしている。 聞くなら今しかない。 |
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うーん、言いたいのはヤマヤマなんだけど、お姉ちゃんに口止めされてるからねー。 | |
そりゃー口止めぐらいはするだろうな。 妹ちゃんだって女銃鹿側の人間なんだし |
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……いいかな? | |
ん? | |
病室のテレビをつけてもいいかな? 朝はいつもニュース番組を見ているのー♪ |
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質問をはぐらかそうとしているのかな? 答えたくないならあきらめるか。 正直妹ちゃんには無理強いをしたくない。 |
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んじゃー女銃鹿が帰って来るまで、TVでも見ながらダラダラするか。 | |
それを聞くと妹ちゃんは携帯ゲーム機で遊びながら…… 右手で器用にTVのリモコンを握りTVのスイッチを入れた。 |
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刑務所から脱獄した鈴木ハジメ被告がドイツ… ハイデルベルグのカール・テオドール橋で銃撃され死亡しました。 |
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いきなり物騒なニュースがTVからながされる。 妹ちゃんはゲームに夢中でTVを見てないようだが、何の為にTVをつけたんだろう? |
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鈴木ハジメ被告は、日本時間で25:00に3発の銃弾を急所に被弾し死亡した模様です。 |
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25:00か… 女銃鹿が銃を撃った時間と同じだな。 |
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女銃鹿が昨夜撃った銃弾も3発だった。 撃った方向も西だったし、西側諸国のドイツに向けて撃った可能性も…… つまり女銃鹿が…… ・・・ ・・ ・ 犯人なんて事はありえないか。 日本で撃った銃弾がドイツに届くわけないもんなー。 |
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これで「長期無期懲役」が確定した死刑囚が殺害される事件は10件目ですね。 | |
長期無期懲役??? 聞きなれない言葉をTVのコメンテーターが使っている。 |
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妹ちゃん長期無期懲役ってなんだか分かる? | |
妹ちゃんは携帯ゲームで遊びながら俺の方に顔を向ける。 ゲームの画面を見ていないのに指だけはしっかりゲームを操作している。 ブラインドゲームってはじめて見るぞ。 |
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長期無期懲役ってのはね・・・ 簡単にいうと犯罪者に厳しい無期懲役なのー。 |
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へ? そんなの必要なの? |
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去年ぐらいにねー。 日本で死刑が廃止されたんだよね。 |
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それは初耳だな。 |
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それで今まで死刑になってた人は、どういう刑罰を受けるか決めないといけなくなったんだよ。 |
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それでできたのが長期無期懲役かー。 具体的にはどんな刑罰なの? |
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他の刑罰と比較すれば分かり易いかも? 無期懲役が仮釈放の可能性があるのー。 終身刑は仮釈放の可能性がないのー。 長期無期懲役は仮釈放の可能性はあるけど基準が厳しいの。 |
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やばい…… いきなり難しい事をいうから分からなくなった。 |
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簡単に説明すると、無期懲役は長い時間刑務所にいて、反省すれば刑務所の外にでられるのー。 | |
そうなのかー。 初耳。 |
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長期無期懲役は…… とっても長い時間刑務所にいて超反省すれば刑務所の外にでられるのー。 |
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つまり長期無期懲役ってのは…… 犯罪者に厳しい無期懲役なんだな。 |
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うん♪ | |
妹ちゃんは教師に向いているかもな…… かなりわかり易かったぜ! |
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それでなんで長期無期懲役の犯罪者が殺されてんの? | |
長期無期懲役の犯罪者さんは、死刑が廃止されてなかったら死刑になってた人達なのー。 | |
妹ちゃんは携帯ゲーム機の操作をいったん止める。 どうやらゲームオーバーになったらしい。 |
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そういう死刑にならなかった犯罪者さんを、どーしても死刑にしたい人がいるんだよね。 |
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なんかとっても政治的で小難しい話だな。 | |
小難しいねー。 | |
いつもの俺なら政治的で小難しい話なんぞに興味ない。 興味ないで済ましたい。 だが……何かが引っかかる。 ドイツにいた犯罪者を殺したのは女銃鹿じゃないのか? さっき自分で否定したばかりの疑念が脳裏をよぎる。 女銃鹿が日本からドイツの犯罪者を銃撃した……のか? |
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ありえないだろ常識的に考えて。 | |
・・・・・・ | |
ありえない話だ。 なのにすげー気になる。 |
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